終わりの始まり

私とあなたの世界

しとしとと、雨は降っていた。
ダンダン、と、ボールを突く音が体育館に響き渡っているのを聞きながら、千夏はスマホを取り出した。

「坂本」
何時の間にかボールを突く音は止んでいた。スマホから顔を上げると、ボールを片手に持っいる赤司が目の前に立っている。
「なに?征十郎くん」
にこりと笑うと、それに答えるように赤司もふわりと笑った。
「帰ろうか」
そういいながら、空いている方の手でちょいと外を指した。そちらに目を向けると、雨はさっきより強まっていた。
このまま雨がもっと強くなると帰れなくなってしまうから、今の内に帰ろうか。
そう解釈して、千夏は荷物を片付け始めた。

***

水たまりに映る、なぜか洛山の制服を着た歪んだ自分の顔を見ながら、くるくると、傘を回してみる。
赤い水玉の傘が、いつか教科書で見た星の動きの様に綺麗な弧を描いていた。
特に話もせず、二人だけで歩く。
雨はまだ降り続いている。
「坂本」
「………どうかしたの?」
返事をためらうほど、弱々しい声だった。
「坂本」
赤司はそう言って、濃紺の傘と共に千夏の方へ向き、頭が一つ分小さい千夏を抱きしめた。千夏はびっくりして、カツン、と傘が落とす。雨水が服に染み込み、二人を濡らしていく。
「せ、征十郎くん?」
誰か見てるから離して、と胸を押しても抱きしめる力が増すだけだった。
「誰もいないよ」
洛山の寮に続く道は普段は人がたくさんいるのだが、雨が降って居る所為であまり人通りのないただの路地になっていた。
ザアザアと降る雨の音は、なぜか千夏の頭の中で自動的にシャットアウトされている。
カラン、と風に吹かれて開いたままの傘が転がった。
「坂本」
顔を上げると、悲しみに暮れた赤司の顔がそこにあった。千夏はなにも言えず、ただただ赤司を見つめるだけだった。
赤司は震えている唇を何度か開き、何かを伝えようとしていたが、すべて不発に終わった。
「征十郎くん?」
そう名前を呼んであげると、びくりと大げさに肩を震わせた。
そして、意を決した様に千夏に言った。
「ねぇ、千夏。もし、もしも…俺が────。」
今日、始めて、名前を呼んでもらった。
嬉しいはずなのに、悲しい。
涙が、なぜか止まらなかった。
最後はなにを言ったのかは、雨の音が掻き消して、聞こえなかった。

***

「なに、征十郎くん?」
ガバッと飛び起きる。キョロと辺りを見回すと、そこは自分の部屋だった。ベッドについてる時計は、まだ5時を指していた。
「ゆ…め……?」
ポツリとつぶやき、カーテンを開く。
外はゴロゴロと雲が呻き、いまにも雨が降り出しそうな雰囲気だった。
昨日の夜、つけたままになっていたらしいリビングのテレビからそんな曇りを吹き飛ばす様な可愛らしい声が響いた。
『天秤座のあなた!』
何処かに雷が落ちたらしい、白い稲妻が空を走り抜けた。
『今日は嫌なことがいっぱい…辛い別れが待っています!今から心の準備を!ラッキーアイテムは折りたたみ傘。』
千夏はそんなことは聞こえさえしなかった。ぼんやりと稲妻が落ちたところを眺めて小さく、何かをつぶやいていた。



さよなら。




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おそらくヒロインはトリップ主人公です。本編では青峰が体育館から消えた後から雨が降ったと描写してましたが、こちらは朝から雨が降っていることになってます。
そしてなぜ洛山の制服なのは突っ込まないでください←
welcom僕司の前日の夜から当日朝にかけての事です。つまり夢です。なんだって、啓発夢?予知夢?
おは朝って絶対数時間置きに放送している思う。←