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※ご都合主義のみんなハッピーな時間軸


ノークトー!お誕生日おめでとう〜!そう嬉嬉としてうちにやって来たプロンプトは、まだ私服のままで。同じく私服のままでいた俺を見てにヘラッと笑いながら小さな紙袋を渡してきた。

「なにこれ」
「誕生日プレゼントその1。まぁノクトひとりじゃ使えないから後でノエルにでも手伝ってもらいなよー」

紙袋を軽く揺らしてみると箱が入っているらしく、またその箱になにか入っているらしい。カラカラと音を立てるそれに、少し眉をひそめてプロンプトを見た。

「おまえ、なんか企んでねぇか」
「………まっさかー?」
「その間はなんだ。間は」
「さ、さぁ?じゃっ!また夜に城でねー!」
「あ、おいっ!」

引き止めるまもなく、プロンプトはリビングから出ていく。靴を履きながらあと少ししたらノエルが着付けに来るからその前にちゃんと頼むんだよーと楽しそうな声がして、パタンと扉が閉まった。手に持っている紙袋をちらりと見て、それをテーブルの上に投げる。テレビをつければどこのチャンネルも自分の誕生日の話題をやっていた。今日で二十歳になり、今日の夜に誕生日も兼ねた叙位式が行われる。今でこそ王子と呼ばれているが、叙位式が終われば王子から皇太子と呼び名が変わり、俺は正式に親父の跡継ぎ、つまりは次代のルシスの王となることになる。それがちょっと、めんどくさいと感じているし、親父の死がちょっと近づいているようにも思えて怖い。まぁこないだの健康診断の結果によるとまだピンピンしてるらしいから良いけど。テレビでは未だに叙位式の報道をしている。式のあれやこれやは全部イグニスとノエルに丸投げしていたし、決定して送られてきた資料も全く読んでないし、家にも全く帰ってないからぶっちゃけ広間が今どうなっているのかは全く知らない。テレビに映っている豪華絢爛に飾られた広間を見て今ビビってるくらいだし。

「ノクトー?いるー?」
「おー。いる」
「あーあ、まぁたこんなに散らかして」

大きな紙袋を持ってやってきたノエルは、そういうなり紙袋をソファーにおいて家の片付けを始めた。これでも片付けるようになった方なんだけどなぁと重い腰を上げる。しばらくしてあらかた片付いたリビングを見て、ノエルは満足そうに頷いた。ガラステーブルに置かれた、唯一片付けられなかったプロンプトからの紙袋が目に付いた。そう言えばノエルと一緒に使えと言われていたのを思い出す。

「なぁノエル」
「なぁに」
「お前まだ化粧とかしてねぇだろ」
「失礼ね、まだしてないわよ。あんたの世話を終わらせないと私は何もできないの」
「ふぅーん、じゃあこれやろーぜ」

投げた紙袋を危なげない手つきで受け取り、何これと独りごちながらノエルは紙袋を開ける。中に入っている箱を見て、ぴしりと固まった。ねぇこれ何が入っているか知らないの?うろたえた様子のノエルを不思議に思いながらも、俺は知らんと答えた。あぁそう、あんたそういう人だもんねと肩を落としたノエルは袋から箱を取り出して開けた。

「ねぇノクト、」
「ん」
「誕生日おめでとう。お酒飲もうか」
「は?なんだよいきなり」
「いいからいいから。グレープピーチレモン、どれが好きなの一つ選んで」
「んー、レモン」
「おっけ、」

箱から黄色い管を取り出したノエルは残りのものをポイッと机に落としてはぁと大きくため息をついた。そして意を決したようにそれを持ってこっちにやって来る。俺の前に立って、大きく深呼吸を一つ。なんだよ、何か知らないけどちょっと傷つくじゃねぇかよ。そしてぺしんと組んでいた脚を叩かれる。渋々直せば、ノエルはちょうど管の片方のキャップを開けた。

「ねぇノクト、ちょっと口開けて。そして動かないで」
「おう、っんぐ!?」
「絶対に!動かないでね!」
「ふぉい!?」

口の中にキャップを開けた方を突っ込んだノエルはそのまま俺の膝の上に、俺と向かい合うようにして座った。待ってなんだこれ。膝の分体がズレたため、俺の目の前にはノエルの胸があって。白いオフショルダーから水色の何かが透けて見える。何までは言うまい。俺が言いたくない。慎重にもう片方のキャップを外したノエルは、勢いよくそれを咥えた。

「!?」
「!!」

ビクリと揺れた体に、ノエルが怒ったように見えた。空いていた両手は俺の両肩に置かれ、ノエルは鼻で息を吸い込んで口で管に空気を送る。レモンと酒の味をしたゼリーが、とろりと口の中に流れ込んできた。

「んっ、ふ、っ」
「んくっ、はっ、」

ノエルが空気を送り込んで、俺がゼリーを飲み込む。何度かそれを繰り返し、管の中のものが全部消えたのを確認し、ノエルはやっと口を離した。俺も口から管を取った。

「っぷあ、はぁ、終わったぁ……」
「………………あぁ、そうだな」
「というかこれ誰から貰ったの」
「プロンプト」
「……アイツ、後でシメる」
「………そうだな」

唾を飲んだのだろうか、ノエルののどがこくりと動いた。恥じらいを含んだ声や、息を吸うために大きく上下しているむき出しの肩。目に毒だな、と慌てて目線をしたにそらせば、ショートパンツから伸びてる太ももが目に入った。据え膳食わぬは男の恥。ふと浮かんだ言葉に、俺は頭を勢いよく振った。
煩悩の消し方