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ざわざわと騒がしい。食材が大量に入っている紙袋を抱えて、ノエルは市場を歩いていた。年に一度しか来ないというのに、店を構える多くの人達はノエルのことを覚えていてくれて通る度に声をかけてくれて何かをくれる。魚に野菜に果物に、ちょっと怪しい小瓶や可愛らしいレースのハンカチだったり。そう言えば成人したんだってな、と言って飲食店のおじさんから貰ったビールとワインを目ざとく見つけたグラディオがおぉ、と瓶に手を伸ばす。

「ちょっと、昼から酒盛りする気?」
「いやぁ、わりぃな」
「しばらく酒は控えろと言っただろう」
「一杯だけいーじゃねーか、全く軍師サマは」
「あ、オレンジあるじゃん!これなら食べていいでしょ?」
「あぁ」
「じゃあ今食べちゃおうか」

ホテルの部屋に戻り、部屋に備え付けられているミニキッチンでノエルは作業を始める。イリスと出かけていたノクトが部屋に帰ってくる頃には、四人はタルコットとジャレットと共にオレンジのタルトをつついていた。ただいま!嬉しそうな顔をして帰ってきたイリスに、クスクスとノエルが笑う。

「デート楽しかった?」
「ちげぇし」
「もぅ、散歩だって!わ、タルト美味しそう!」
「はい、イリスの分。これはノクトの」
「ありがとう!」
「おぉ」

おやつに舌鼓を打ち一息ついたところで、プロンプトはタルコットを見た。

「じゃあタルコット、街で聞いた話」
「わかった」
「これ、そんな口を」
「あぁ大丈夫、俺一般市民なんで」

だから早くノクトに聞かせてね、ウィンクしたプロンプトに、タルコットははい、と元気よく返事をした。

「ノクティス様、伝説の剣がこの近くの滝の中にあるんだそうです」

地図を広げたノエルに、ここだそうです、とタルコットが赤いペンで印をつける。もしかしてまだ知られていない墓所の位置かもしれない、考え込んだイグニスに、まぁ行ってみるしかないだろ、とグラディオはコーヒーを飲み干してコップを机に置いた。ありがとな、タルコット。いいえ!少し上ずった声で返事したタルコットの頭を撫でたノクトは、一同を振り返った。

「行こう」







ひんやりと冷たい洞窟の中は、地面がすべて氷になっており、つるつると歩きづらい。こんなに寒けりゃシガイも出ないよね?恐る恐ると聞いたプロンプトに、シガイに暑いも寒いもないだろ、とグラディオが呆れた顔で一蹴した。そうこうしている紫煙と共に大量のプリンやらインプやらが出て来た。ですよね!全てを諦めたように叫んだプロンプトは拳銃を召喚してモンスターに撃ち込んだ。

「あー、さむっ」
「そんな格好してるからでしょ」

呆れたように言ったノエルを睨めば、あなたの上着は持ってきてないわよと肩を竦められる。そんなノエルの隣で歩くプロンプトは、薄手だけど暖かい素材でできた上着を羽織っており、ノエル最高、なんてしみじみ呟いていた。外出たらなんかあったかいもん奢れ、と適当な約束を取り付けて足滑らせんなよ、と声をかければその直後に聞こえたのはきゃぁ、と言うノエルの悲鳴だった。慌てて振り返れば言葉通りに見事に足を滑らせたノエルがこれまた見事にマンガで見るように綺麗にひっくり返った。急遽ここに来ることが決まってしまい着替え損ねてしまったのだろうか、丈の短い濃紺のスカートが少しめくれ上がっていた。起き上がったノエルは、慌ててスカートを直してノクトをギンっと睨みつける。

「………見た?」
「見てない」

白のフリル。ぶんぶんと頭を勢いよく振って否定したノクトをしばらくは疑いの目で見ていたノエルだったが、倒しても倒しても湧いてくるシガイの相手をしているうちにこのことはすっかり忘れてしまっていた。やがて開けたところに出てきた一行は、その奥にある見慣れた扉を見つけそこへ進もうとしたのだが、湧いてきたインプやマインドフレアが行く手を阻む。シガイと戦っていると、ノクトとノエルに名前を呼ばれる。

「ノクトは力を受け取ってきて!」
「俺達が足止めしておくからさっさと行ってこい」
「……おう!」

シガイ達の間を通り抜けて扉にたどり着いたノクトは、コルから受け取った墓を開けるための鍵を鍵穴に差し込んで回す。ゴゴゴ、と重い音を立てて開いた扉に入り、台の上に横たわっている王の石像が抱えている双剣に手をかざす。ふんわりとファントムソードが浮き上がり、ノクトの体内に入っていった。急いで墓から出れば、丁度全部片付け終わった四人が一息ついていた。タルコットに感謝しなきゃねぇ。興味深そうに地面の氷を触っているノエルに同意しながら一歩踏み出そうとしたノクトは、再び突然襲ってきた頭痛に思わず地面にしゃがみこんだ。まるで頭をトンカチで叩かれたような痛みと共に、頭の中に流れてくる風景。

「大丈夫!?」
「なんだ…どこだ…」
「どうした」
「穴ん中で、なんか燃えてた…あれ、メテオか?」

慌てて駆け寄ってきたプロンプトに支えて立ち上がる。メテオ…カーテスの大皿か?少し考え込んだイグニスは、とりあえずレスタルムに戻ろうと提案した。洞窟を出る頃には空はもう既に暗くなっていて、シガイ対策の強化型ヘッドライトを装備していないレガリアで移動しては危険だと判断した一行は、ハーブストにあるキャビンで一泊してレスタルムに戻った。

「ノクティス様!おかえりなさい!」

ぴょんぴょんと跳ねながら手を振ったタルコットに手を振り返し、その頭を撫でようと手を伸ばして瞬間、再び頭に激痛が走る。先程より鮮明に見えた画像といかつい顔をした何かに、体がぐらついた。まただ、零れた声に、イリスが心配そうな顔をして近づいた。

「大丈夫?どうしたの?」
「イリス、心配すんな。展望公園からカーテスの大皿が見えてたな」
「うん、望遠鏡もあるよ。行ってみようか」

ノクトからイリスを隔離させたグラディオは、ノクトの背中を押してじゃあまたな、と歩き出した。最後に残ったノエルは、ドクトゥスと顔を見合わせて頷いた後にジャレットとイリスの方を向いた。

「ちょっと用事済ませてくるだけだから。もしかしたら何日か帰ってこれなくなるかもしれないけど、心配しないで」
「……ほんと?」
「本当よ。じゃあ、行ってくるね」
「えぇ。いってらっしゃいませ、ノエル様」
「気をつけろよ」
「ありがとう、お父さん」

ホテルを出たノエルは、ノクト達の後を追う。展望公園に着けば、そこにはガーディナで遭遇したアーデンが望遠鏡を覗いていた。まるでノクトたちが来るのを待っていたようにも思えたアーデンは、こちらを振り返って驚いたような顔をして片手をあげた。

「あれ、偶然」
「おい、またお前か」

顔を顰めたグラディオの問いかけを無視して、アーデンはノクトに近づいた。

「ねぇ、昔話、興味ある?」

訝しげな顔をする四人に、アーデンは更に話しかける。

「巨神がさ、隕石の下で王様を呼んでる」

あれは呼んでるって言うよりはルナフレーナと会ってお話したことを自慢したいだけなんじゃ?今も絶え間なくタイタンに話しかけられているノエルは、アーデンの言葉に首をひねった。

「神様の言葉は人にはわからないからなぁ、頭が痛くなる人もいるかもね?」
「どうすればいいの、それ」

まるで今のノクトの状態を言っているようで、興味を持ったプロンプトはアーデンに詰め寄る。

「会いに行ってみる?なにか伝えたいと思うよ?……一緒に行こ?」

胡散臭い男からされた提案に、一同はその場から少し離れて固まった。

「どうする?」
「乗るか?」
「うーん、」
「行ってみて、」
「ヤバけりゃもどる」
「あぁ、」
「じゃ、そゆことで」

バッと一斉にアーデンを見ると、彼はニッコリも笑ってゆっくりと歩き出した。

「俺の名前さ、ずっごく長くてさ。略して『アーデン』なんだけどさ、この愛称で呼んでよ」

車で行くからさ、みんなで駐車場にいこうよ。前を歩くアーデンを見て、アーデンって愛称だったの?とノエルはまじまじとその後ろ姿を見つめた。
再会