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おい起きろ、肩を揺らされて起きたノエルは、目をうっすらと開けてぼんやりと周りを見回した。給油所と、ショップ。その奥に広がる雄大な自然。少なくともリード地方ではないことが伺えた。

「ここどこ…?」
「アルクス、だっけ」
「………あぁ、そこ」

たしか大きな湖があったはず。ゆっくりと体を起こしたノエルは、うん、と背伸びして車から降りる。とりあえず周辺の情報収集でもしようか、レストランに向かおうと歩き出したノクトは、鳴り始めた電話に立ち止まった。もしもし、そう声をかければ電話の向こうから聞こえてくるのは可愛らしい女の子の声で。その声を聞いてあのやろなんで俺にじゃなくてノクトに電話すんだよ、とグラディオが顔を顰めた。まぁまぁ、とプロンプトがなだめている間に電話は終わったらしい。スマホをポケットにしまったノクトはこちらを振り返る。

「イリス達、レスタルムにいるって」
「一回合流するの?」
「ん、そんなとこ」

元々給油のためにと立ち寄った場所だ。レストランで周辺の情報収集を終え、半分ほどなくなっていたガソリンを満タンに入れ、ポーションの補充やいつか使うかもしれない修理キット、プロンプトの一生のお願いで王都では売っていなかった珍しいフレーバーのポテトチップスを購入し、一同は再び車に乗り込もうとした。

「ノクト、」
「ん?」

運転席に乗り込もうとしたイグニスに呼び止められ、ノクトも後ろに乗り込むのを止めてイグニスを見る。

「俺達もだいぶ外の道に慣れてきた。運転したい時はいつでも代わるぞ」
「んー、あー、わりぃけどパス」

王都の中でも片手で数えられるほどしか運転していないのに、王都の中とはまるっきり違う外じゃ何を仕出かすか分かんねぇし、また車壊してハンマーヘッドに逆戻りじゃアレだろ。ヒラヒラと手を振ったノクトにそうか、と頷きグラディオを見ると、運転席に狭ぇの嫌だし俺運転荒いの知ってるだろ、と顔を顰められる。普段どんだけ大きな車に乗ってるの、呆れた顔をしたノエルを見れば、ノエルはイグニスを見返す。そのまま見つめ合うこと数十秒。はぁ、と息を吐いたノエルは、代わりますよ、と渋々席を立ち上がって運転席に座った。いつでも代われるようにとイグニスが助手席に座ることになり、プロンプトは後ろの方に追いやられて狭い狭いと叫んでいる。だったら私に運転させるな、そう嘆いたノエルは慣れた手つきでレガリアにエンジンをかける。アクセルを踏めば、車はゆっくりと走り出した。ノクトのリクエストで車の屋根を開けてオープンカーにすれば、ダスカ地方の爽やかな空気が吹き抜ける。

「そう言えばチョコボポストが近くにあるんだけど」
「えっ、うそうそ!寄ろうよ!ね!ノクト!」
「んぁ?好きにすればいーんじゃねーか?」
「だってさ、ほらノエル行こうよ!」
「残念ながらもう通り過ぎましたー」
「えぇー!だったらもっと早くに言ってよ!」

ブーイングをあげるプロンプトに、ノエルはクスクスと笑う。じゃあチョコボ見れない代わりに少し寄り道でもしてみる?カーテスの大皿を指さしたノエルに、少し寄ってみるのもいい、とイグニスが頷いた。

「えぇー、そんなのイグニスが見たいだけでしょ」
「…まぁ、」

少し横道に逸れて、車は走り出す。しばらくすれば、目の前に大きな岩が見え始めた。この先に何があるの、とプロンプトがイグニスに聞けば、イグニスはわからないと頭を横に振る。そもそも俺らインソムニアから出たこと無いもんなぁ、と頭の後ろで手を組んでいたプロンプトは、あっ、とノエルを見た。

「ノエルは知ってる?カーテスの大皿がどうなってんのか」
「まぁ、知ってるよ」
「うそ!どんな?」
「タイタンがいる」
「それだけ?」
「それだけ」

えぇー、タイタンってどんなんだろう。まだ見ぬ巨神タイタンに思いを馳せ始めたプロンプトをバックミラー越しにちらりと見て前を向いたノエルは、あれ、声を漏らした。隣で地図を広げてエボニーを啜っていたイグニスが、どうした、と聞いてくる。

「カーテスの大皿、入れない…」
「え?」
「いつの間にか門出来てるし、帝国軍が、いるんだけど」

少し離れたところに車を止めて先を指さしたノエルの指先をたどればそこにいるのは確かに大きな鉄の門と大量の帝国軍で。帝国軍を倒しても門は開かないだろうと予想をつけたイグニスは、そうか、と少し落ち込んでいるのが目に見えてよく分かった。

「……撤収するか」
「………なんか、ごめん」

ここからレスタルムまでは交代してイグニスが運転することになり、プロンプトも助手席に戻れて嬉しそうだった。大きくUターンした車はレスタルムに向かって走り出した。

ーわが子よ

今まで通りノクトとグラディオの間に戻ったノエルは、ふと聞こえてきた声に振り返る。

ー近いうちに会おう

それが何を意味するのか、なんとなく察してしまったノエルは小さくうん、と頷いた。どした、後ろになんかあんのか?気づいたノクトが聞いてきて、ノエルはううん、と適当に誤魔化した。寄り道している間に随分時間が経ってしまったらしい。レスタルムにつく頃には日は既に沈み始めていた。

「この街でかいな」
「久々の都会って感じだな」
「まぁインソムニアに比べれば小さいけど」
「それは言わない約束ー」

あー、フカフカのベットで寝れる!両手を天に突き上げたプロンプトは、早速ホテルに行こうよと歩き出した出した。その後を歩いていたノクトは、街の入り口にもなっている大通りで売っている串焼きに目が行ってその場で立ち止まってしまい、それを見た屋台のおっちゃんがひとつどうだ?とノクトに差し出せば、ノクトは目を輝かせてそれにがぶりついた。美味しかったらしい。その場に立ち尽くしてジーンと感動していると、グラディオが咳払いをした。少し乱雑しているレスタルムの裏路地をいくつか通ると、イリスが泊まっているというリウエイホテルについて、後ろを歩いていたノエルが階段を一歩登ろうとすると、突然地面が激しく揺れて目の前でノクトが体勢を崩した。慌てて手を伸ばして支える。

「ノクトッ!?」
「ってぇ…」
「どうした」
「なんか頭いてぇ…って思ったけど…」
「大丈夫?」
「平気、もう治った」

もうなんとも無い。けろりとした顔でそう言ったノクトに、ノエルは胸をなでおろした。地震さえ来なければ頭が痛くならない。そう言ったノクトに、どういう事だ、とイグニスが考え込んだ。ホテルはもう目の前だ。しばらく地震は来ないはずだから頭痛のことは置いといてまずはイリスに会おう。ホテルに入った一行は、フロントで待ってたドクトゥスと会った。

「お父さん!」
「よぉ、ノエル。無事か?」
「うん、平気………えっと、」

キョロりと当たり見回したノエルに申し訳なさそうな顔をしたドクトゥスは、くしゃりとノエルの頭を撫でた。

「母さんは上にいるよ。オヤジは…逃げなかった」
「………………そっか」
「最後まで護ってた」
「うん」

ドクトゥスによるとインソムニアから逃げ遅れた国民を助けるために残ったノエルの祖父は、自身に僅かに残っていたクリスタルの力を使い、小さな魔法障壁を作って国民を逃がしたらしい。最後の一人が逃げるのを見送った祖父も逃げようとしたのだが、運悪く帝国軍と鉢合わせして殺されてしまったという。遺体はまだインソムニアに残っており、頃合を見計らってドクトゥスが引き取りに帰ることになっている。俯いたノエルに、すまんな、とドクトゥスが言う。

「力、貰ったみたいだな」
「うん、」
「重責背負わせちまって、」
「ううん、」
「ノエル」
「なに?」
「先に謝っておく。ごめんな」
「どうしたの?」
「今はちょっと言えない…じきに分かるさ」

かき回すようにノエルの頭を撫でたドクトゥスは、ま、気にすんな、とカラカラ笑った。
予感