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悩んでいても仕方が無い。もしかしてあの時のノクトは寝ぼけていたのかもしれない。自分を納得させたノエルは、登り始めた太陽の光に目を細めながらうん、と背伸びをした。先に起きていたイグニスがキャビンの方からやってきて朝食を作っているらしい。手伝うよ、と声をかけて指示通りに包丁で材料を切っていく。しばらくすれば朝食の匂いにつられてグラディオがテントから顔を出し、もうしばらくすればプロンプトがまだ目をしょぼしょぼさせているノクトを連れてやってきた。

「おっはよー!」
「、はよ」
「おはよう、時間通りに起きれたな」
「あー、朝日が目にしみる」

二度寝しようとしたノクトの襟をグラディオが掴み、テントから引きずり出す。渋々と言ったように椅子に座ったノクトは、差し出されたホットサンドをかじる。それを見ながら、ノエルはノクトに紙パックを渡した。いつもの野菜ジュースである。顔を顰めながら期間限定夏みかん仕様のそれを飲み、次の王の墓について次はどうしようかと話そうとした時、ノクトのスマホが鳴った。

「もしもし」
『くたばってはいないか?』
「ねぇし。力、手に入れたぞ」
『上出来だ。お前達に頼みがある』

スマホをスピーカーにして机に置くと、なんだなんだとみんなが集まってくる。いいぜ、そうノクトが声をかけると、電話の向こうのコルは咳払いを一度してから話し出した。

『西のダスカ地方に繋がる道に、帝国軍が基地を作ろうとしている。封鎖線として、機能する前に潰せ。放っておけば西への道が閉ざされる。力を得るどころではなくなるぞ』

来る時に見たあそこのゲートか、重い鉄の扉のあった方向を見たノエルは、私が見た時にはまだ空いてたけど、と頭をかしげたのだが、プロンプトは自分たちの通った時にはもう閉まっていたという。イリス達やルナフレーナはほんとに運がよかったのね、そう思いながら、ノエルはコルの話に耳に傾ける。どうやら集落の近くにまだモニカがいるらしく、詳しいことについてはモニカに聞けとのことらしい。ありがとうと礼を言ってから電話を切ったノクトは、ズッと野菜ジュースの最後の一口を吸って箱を畳む。テントなどのキャンプ用品は、既に折りたたまれてプロンプトとグラディオによって車に運ばれていた。

「行くか」
「おう」
「急ぐに越したことはないね」







「ノクト大丈夫かなー」
「大丈夫でしょ、コル将軍一緒だし」

告げられた作戦通り陽動としてゲートの前に立った四人は、帝国兵が来るまで暇を潰していた。もう少し気を引き締めろ、と小言をいうイグニスの目の前には、カメラを使って楽しく自撮りをしているノエルとプロンプトがいる。そんなのわかってるよ、とカメラのシャッターを切ったノエルは、おや、と動作を止めて空を見上げる。聞こえてくる微かなエンジン音に、イグニスがカチャとメガネのフレームをあげた。

「魔導エンジンの音だ」
「おい来るぞ、気ぃ引き締めてけよ」

武器を召喚したイグニスとグラディオを見て、ノエルとプロンプトは顔を見合わせて頷く。それぞれレイピアと拳銃を召喚すれば、目の前に止まった揚陸艇から大量の魔道兵が落っこちてきた。シフトブレイクが出来るのはノクトだけじゃない。王の剣にいた頃に教わったことを思い出しながらシフトで敵の中に切り込んだノエルを皮切りに、三人は大量の魔道兵の裏に回り攻撃を始める。時にはイグニスとグラディオが連携し、時にはノエルが敵にサンダーを撃ち込み動けなくなったところをプロンプトが一掃したりと格闘を続けることしばらく。鉄くずとなって地面に転がった魔道兵の残骸を見て、ノエルはふぅ、と息を吐いた。

「こんなもんかな」
「こんなもんだろ」
「すごいなー、これどんな仕組みなんだろう」

まじまじと魔道兵を観察したプロンプトはビー、と警告音に顔を上げる。目の前にある鉄の扉はゆっくりと開き、向こうにいたノクトとコルが姿を現した。

「大丈夫だったか」
「はい、将軍こそ、無事で何よりです」

うん、と一つ頷いたコルは、扉の向こうで散らばっている魔道兵の残骸を見て満足そうに頷いた。いい働きだったと言えるだろう、滅多にない褒め言葉に、四人は顔を見合わせて少し笑う。これでもう済んだのだろうか、俺もう疲れたー、背伸びしたプロンプトはしっ、というコルの注意にビクリと大袈裟な程に震え上がり動きを止めた。空を睨みつけるコルの目線を辿っていけば、そこにはもう一艘の揚陸艇が悠々とこちらに向かってきていた。

『動くな、侵入者』
「侵入者はどっちだ」

そう吐き捨てたノエルは聞こえてきた言葉を無視して一歩前に向かって歩き出そうとしたが、チュインと足元をかすった弾丸に出かけた足を引っ込めて顔を顰めた。

『ルシスのコルか、へぇ、よくあの城を抜け出せたな』

周りのことはまるで見えていないようである。ロキと名乗った敵国の准将は魔導アーマーに乗って大量の魔道兵と共に揚陸艇を降りた。お前ら本気を出せ、コルの言葉にグラディオとノエルは頷き合計六人は二手に分かれる。と言っても別れたのはノエル一人なのだが。魔導アーマーを攻撃するノクト達を周りで妨害をする魔道兵の処理を一任され、武器を持ち替えて魔道兵に攻撃をしていく。先ほどと同じようにしてサンダーを撃ち込み、動けなくなったのを始末したり、シフトをうまく使いながら倒していく。途中からはモニカも駆けつけ、二人が全ての魔道兵を倒したのと時と同じくして、ノクト達もロキの魔導アーマーを倒せたらしい。帝国に栄光あれ!そう叫びながら爆発した魔導アーマーにロキの姿はなくかった。逃げられたか、鉄くずの塊になった魔導アーマーの残骸を見てチッとグラディオは舌打ちした。

「よくやった。なかなかの動きだ」

開いたダスカへの門を見ながら、コルはノクトに声をかける。戦い方も手慣れてきたな、安心した。そうノクトを振り返ったコルは、じゃあ、と片手を小さくあげた。

「オレはまた帝国への監視を続ける。いずれまた会おう」

封鎖線の前に止めてあった軍用のバンに乗り込んだコルは、お前らも頑張れよ、と言い残し、モニカを連れてダスカの方へと車を走らせる。どんどんと小さくなる車の後ろ姿をぼんやりと眺めているとプー、と車のクラクションのことが聞こえ、振り返ればそこに居たのはレガリアに乗ったイグニスがいた。

「俺達も行くぞ」
「……そっか、俺達まだ旅ができるんだね」

そう言って車に乗り込む。何日かぶりのレガリアに安心感を覚えたのか、ノエルは車に乗るとすぐさま寝てしまった。そんなノエルを見て、グラディオは笑ってノエルの頭をくしゃり撫でた。

「外の厳しさには慣れちゃあきたが」
「世界は広いねー」
「やることも沢山ある」
「ほんとー」
「まだまだ、これからだな」

車は砂地のリード地方へ抜け、緑広がる湿地帯のダスカ地方に向かってゆっくりと走り出した。
宣戦布告