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シドから聞いた話通りに北西に向かえば、ハンターが多くいる集落にたどり着いた。そこにはコルやノエルの姿はなかったが、警備隊の人間であるモニカがいた。ノクティス様、ご無事で何よりです。安堵した表情の彼女は、ほかの人たちは、というグラディオの質問に表情を曇らせる。警備隊の人間はほぼ王都で亡くなってしまった事や、イリス達は無事でレスタルムに向かって逃げていること。コルとノエルはこの奥にいる王の墓所でみんなを待っていることを教えてくれた。それに礼を言って、ノクトは足早に奥にあるという王の墓所に向かって歩き出す。キカトリーク塹壕跡に入って横道に逸れる。緩やか坂道を登れば、王の墓が姿を現した。

「これ、お墓かぁ」
「将軍とノエルは中か」

封鎖されている王の墓のドアが、少し空いていた。二人はもう中にいるだろう、そう言ったグラディオに頷いて、ノクトはドアを開けた。中に入れば、コルがこちらを振り返った。隣に目を移せば、ノエルと目が合う。

「ノクト…」
「お前はっ、勝手にいなくなんな!」

ノクトが滅多に出さない大声を出して怒っている。自分がしてしまったことを自覚したノエルは一瞬目を見張り、目を逸らして俯いた。

「ごめん、なさい」
「心配かけさせんなよ…」

俯くノエルに、ノクトは近づいた。ぎゅうと握りしめられた拳はわずかに震えている。今にも泣き出しそうな様子に、そんな顔をさせたかった訳じゃねぇ、と呟いたノクトはノエルの腕を引いた。されるがままに倒れ込んできたノエルを、ノクトはそっと抱きしめる。

「生きてて良かった」

そう言えば、腕の中にいるノエルはビクリと肩を跳ねさせた。そして恐る恐ると言うようにそっとノクトの背中に腕を回す。

「………ごめん」
「謝れとは言ってねぇよ。とにかく無事でよかった」

とんとん、と落ち着かせるように背中を叩いてあげると、ノエルはこくりと頷いてノクトから離れる。消えた温もりと柔らかさを少し残念に思っていると、こほんとコルの咳払いが聞こえた。

「もういいか」
「あぁ。で、俺は何をすればいいって?」
「亡き王の魂に触れることで力が新王へと与えられる」

横たわる先王の石像に手をかざしたコルは、これは魂の棺だ、力を得ることは王の使命でもある。と言葉を続けた。このあとちょっとした言い争いになるのは目に見えてる。終わるまで待っているよ、と入り口に立っていたプロンプトに声をかけて、ノエルは外に出る。雲一つない、晴れやかな澄み渡る青空である。うん、と大きく背伸びを一つしたノエルは、大きな欠伸をして地面に座り込んだ。空から降り注ぐ夏の日差しに少し目を細めながら、ノエルは王の墓の前に植えられている木の下に腰掛ける。葉と葉の間から漏れるやわからな日差しは柔らかく、ふぁ、と欠伸が出たノエルは、そのまま木に寄りかかって、ゆっくりと目を閉じた。その間にノクトは一人目である賢王の力を授かった。キラキラと輝きながら自分の周りを回るそれは小さい頃に父親がまとっていたのと同じもので、小さな頃に父親に教えてもらったノエルを守る力が一つ増えたことにノクトは心の中で少し嬉しかった。そんなノクトを見て、コルは近くにもう一箇所王の墓があるところがあると言って歩き出した。暗く涼しい王の墓の部屋の中とは違い、目を刺すような眩しい外の光にノクトは細める。日差しから少しでも逃げようとして下を向いたノクトは、近く後の下で眠るノエルを見つけた。おい起きろよ、声をかけようとしたノクトはコルに止められた。

「寝かせておけ。モニカにモービルキャビンに運んでおく言ってある」

スヤスヤと眠るノエルの頭をぽんと撫でたコルは、ノエルは夜通しインソムニアで帝国軍と戦っていたことをノクト達に伝えた。それにノクトは少し眉をひそめたが、そっか、と言ってキカトリークの奥にあるもう一つの王の墓を目指して歩き出した。







ーニフルハイム・ジグナタス要塞ー

コツン、コツン、コツン。足音を響かせながら、アーデンは薄暗い廊下を進んでいく。控えていた帝国兵は、横を通るアーデンに向かって礼をするが、アーデンは何もせずにそれをちらりと一瞥し、エレベーターに乗る。ぐんぐんと登っていくそれは、やがて最上階にたどり着いた。カンカンと鉄の橋を渡り、アーデンはルシスから奪ってきたクリスタルの前に立った。鎖によって縛られて吊るされたそれをじっくりと見て、アーデンはそれに手を伸ばす。拒むことなく触れることが出来るそれに、アーデンは眉をひそめた。さんざん拒まれ続けたのに、今更なんと。クリスタルから手を離したアーデンは、じっとそれを見つめてあることに気付いた。

「………力が、感じられない?」

眩いばかりの光を放ち、力を溢れさせるそれは、いまはそんな雰囲気もなく、鈍く充てられているスポットライトの光を反射させているだけだった。ルシスから運び出されたクリスタルは本物だった。アーデンもクリスタルがつまれたのと同じ揚陸艇に乗っていたからすり替える事は出来ない。最初から偽物である…確率はある。クリスタルが揚陸艇に運び込まれているのを見ていただけで、クリスタルの間から運び出されていた所から見ていた訳では無い。しかしこと冷たい感触といい色合いと言い本物のクリスタルであることには間違いない。これはどういうことか、アーデンはクリスタルを前にしてしばし考え込んだ。思考はどんどん脱線してゆき、そして思い浮かんだのはルシスの次代の幼い王と、自分の事を訳もわからずに哀れと呼んだ娘。思わず口角が上がり、アーデンはふふ、と声に出して笑った。一目で見てわかった。あの王子と娘は相思相愛だ。身分の故かお互い一歩踏み出せずにいる。いや、王子が踏み出せない限り娘はなにも出来ないのだ。あの娘は利用価値がある。餌にして王子を釣り、殺す。出来上がった素敵なシナリオに、アーデンは心の中で自画自賛した。それにはまず娘を懐柔しないと。今のところ強い警戒心は持たれていない。こちらに引き込むのなら今のうちかもしれない。あぁ、あの娘は多分王子一行にいる。真の王は今のところ歴代王と六神の力を借りに旅に出るのだろう。頭の中で地図を広げ、アーデンは考える。おそらく次に向かうのはレスタルムだろうか。先回りして待っているのも悪くは無い。待っている間にカーテスの大皿にいるタイタンをやってしまおう。いい暇つぶしになる筈だ。来た道を戻りながら、アーデンは自分が知らぬうちに鼻歌を歌っていたことに気づいた。

「実に愉快だ」

まぶたを閉じれば、思い浮かぶのは暗闇に支配された世界と、王の椅子に座る自分の姿。ルシスの王家は血を絶たれ、一人もいないそんな世界。実に愉快だ、もう一度そう声を出して言ったアーデンは、下にカーテスの大皿の封鎖と出軍の命令を出そうと、要塞を出た。
歴代王の力