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「おっきかったねーあの鳥」
「昼間にハンマーヘッドで見たやつじゃねぇの?」
「あれかぁ、」
「大きかったな」
「相手にしなくて正解だった」

採取したガーネットの原石を片手に、一行はガーディナに戻っていく。日はもう暮れ始め、夕日がガーディナをオレンジ色に染め上げている。綺麗だねー、写真を撮ったプロンプトが、そういえば、とノクトの持っている原石を見た。

「なんで俺らに原石なんか頼んだんだろ」
「ディーノは新聞記者だけど、アクセサリー職人もやってるんだよ」
「そう言えばノエル、ディーノと知り合いなんだね」

カメラを向けられて、ノエルはニッコリと笑う。何枚か撮り、満足したらしく、プロンプトは再び歩き出した。

「うん、結構前からの知り合い。うちがつけてるのもディーノの手作り」

あと、前にノクトとプロンプトにあげたネックレスも、ディーノの作ったものだよ。そう言ったノエルに、ええっ、とプロンプトは驚いて胸元を触った。

「これも!?」
「それも。驚いた?」
「うん!てっきりどっかで買ったやつかと……」
「ディーノの手作り。あぁ見えて、腕はピカイチだよ」
「そういうのに関しては厳しいノエルが認めてるってすごいことだな」

うーんと複雑そうに唸ったプロンプトをみて、ノエルはクスクスと笑う。

「約束したんだ」
「え?」
「もし、私が結婚したら、指輪はディーノが作るって」

海風でなびいた髪を耳にかける。小指のピンキーリングが夕日に反射して、きらりと光った。

「ノエル……」
「まぁ、そのうちいい人が出てくるんだから、気長に待ってーー」

そこまで言いかけて、ノエルはピタリと立ち止まった。心臓を強く掴まれたような痛みが走り、ノエルは地面にしゃがみこむ。いち早く気付いたノクトが慌ててノエルに駆け寄った。

「ノエルッ、大丈夫か!?」
「……はぁっ、だい、じょうぶ」

ノクトの支えを借りて立ち上がったノエルは、はぁと短く息を吐いて、インソムニアのある方をじっと見つめる。どうした、イグニスの心配そうな声が聞こえる。ダメ、口からこぼれでた言葉に、どうした!とノクトがノエルの肩を掴んで揺さぶる。

「ダメ、行かなきゃ…」

くるりと振り返ったノエルは、そのまま走り出す。おい待てよ!その後を慌てて四人が追いかけるが、一つ目のカーブを曲がった先に、ノエルの姿はいなかった。

「いない!?」
「消え、た…?」

呆然とするプロンプトは、ノクトを振り返る。それにノクトは悔しそうに顔を歪めた。ノエルが消えた。それは何が悪いことが起きる予兆にも思えて、そんな悪い考えを振り払うように、ノクトは頭を振った。すぐ帰ってくる。自分に言い聞かせて、ノクトはガーディナに戻った。







力を使い、城までワープする。クリスタルの前に来たノエルは、もくもくと黒い煙をあげるクリスタルの保護ケースを見て声を漏らした。少しヒビが入って割れているケースの中にあるクリスタルは無傷であることにほっとして、ノエルはクリスタルの前に手をかざして目を閉じる。もしもの事があった時、これをしろと祖父や父に言われ続けたことだ。

「星を守りし聖石よ。そなたの愛し子が命ずる」

ほんのりと輝き始めたクリスタルから、ひときわ眩しい光の玉が飛び出した。ふわりと空中で浮遊したそれは、やがてノエルに惹き付けられたように、ふわふわとノエルの周りを漂い始める。

「その力を我が身に集め、真の王とともに闇を払え!」

ノエルの声に呼応するように、光の玉は明るさを増して行く。カッと眩い光がクリスタルの間を包み込んだかと思うと、小さく収縮してノエルの中に入って行った。先程までほのかに光っていたクリスタルはだんだんと光を失いはじめ、やがて普通のクリスタルに戻っていく。クリスタルの持つ力と、その中にいるバハムートがノエルの中に移された。じんわりと胸から広がっていくクリスタルの強大な力に、ノエルは小さく身震いした。これから次にクリスタルに力を返すまで、自分は絶対に死んではいけない。ゆっくりと目を開けたノエルは、小さく頷いて、調印式が行われている広間に向かって走り出した。そこに近づけは近付くほと、場を混乱を極めていた。そこかしこから銃の音か武器がぶつかり合う音が聞こえる。こちらに飛んでくる弾丸や刃先をするりと交わして、ノエルは部屋の一番奥に駆け込んだ。目の前に、鮮血が散った。立っていたのは、幼い頃に見たあの鎧だった。

「ーッ!」

もう要はないとばかりに、鎧はここから立ち去る。震える足を叱咤して、ノエルはゆっくりとレギスに近寄る。じわりと腹部からにじみ出た赤が、黒を染める。レギス、様、レギスのそばに膝ついたノエルの気配に、レギスはゆっくりとまぶたを開ける。

「ノエル、か」
「じゃべらないで、ください」
「いいんだ、」
「だめです」
「私はここで死ぬ」
「イヤです」
「決まった事だ」
「きまっていません」

目からこぼれ落ちた涙が、レギスの頬に落ちる。ゆっくりと手を伸ばして、レギスはノエルの目尻をなぞった。

「すまんな」
「何を謝っているんです」
「不甲斐ない息子で、済まない」
「それより自分の心配をしてください」
「ノエル」
「っ、お願いだから!生きてください!」

泣かないでくれ、レギスは困ったようにノエルを見た。

「ありがとう」
「っだったら、」
「きみを、自分の娘のように思っていた」
「っ、なにをおっしゃるんですか」

すまない、再び謝ったレギスは、ひゅーひゅーと息を吐きながらぎごちなく口角をあげた。手を頭の後ろに回してイヤイヤと頭を振るノエルを抱き寄せる。

「いつも思い描いていた。君がノクトと共に未来を歩んでいく姿を」
「やめて…」
「素晴らしい国になる未来を」
「いいんです!もう!」
「ノクトの事を、頼んだ」

だらり。ノエルに回されていた腕から力が失われた。暖かな体は熱を失い、柔らかさを失い始める。ニフルハイムの襲撃により天井に空いた穴から差し込んだ光は、まるでスポットライトかのようにレギスの冷たくなった体を照らす。レギスの指から光耀の指輪を取り外し、腰に刺さっている剣を取り、ノエルはゆっくりと立ち上がる。目の前に男が立ちはだかった。レイヴスだ。レギスと話している間に人を寄せ付けないようにしてくれたのは、実は彼だったりする。

「寄越してくれ」
「剣だけよ」
「わかってる」

レギスの魂が、ノエルからレイヴスに渡される。レギスの剣を腰に差したレイヴスは、絶対返しに来るとノエルに言葉を残して、足早に広間を出た。戦うつもりは微塵もないらしい。未だ戦闘が行われているこの部屋を、ノエルはぐるりと見回した。彼女の探している人物はいない。ノエルは広間を出て、城の地下駐車場に向かって走り出した。目的の人物は、すぐに追いついた。彼女を連れている男を呼ぶ。

「ニックス!」
「ノエルか!?」
「よかった、ルナフレーナ様も一緒ね」
「はい、ノエル様も、ご無事で何よりです」
「私は、城にはいなかったから」

俯いたノエルは、それより、とポケットから指輪を取り出した。

「これ、」
「光耀の指輪…ありがとうございます」
「これは、ルナフレーナ様が渡してあげて」
「しかし…」
「ノクトも、ルナフレーナ様に会いたいと思っているの」

でも、その前に。ノエルはニックスに指輪を突き出した。

「おいおい…冗談はよせ」
「冗談じゃないわ。使って」
「それってレギス陛下がお使いになってるやつだろ」
「私言ったはずよ、ニックスは王になれるって」
「冗談だろ」
「本気よ。じゃなきゃあなたに預けないわ」

ガチャン、近くで金属音がした。揚陸艇から投下された魔道兵がこのあたりをうろうろしているらしい。半ば押し付けるように、ノエルは指輪をニックスに押し付けた。

「アロレックスの名において、彼、ニックス・ウリックに王の力を与えることを命ずる」
「おい」
「逃げて、お願い」
「お前も来い」
「ダメ、私はここであいつらを食い止める」
「ダメだ、来るんだ」
「私はもう、守られてばっかりで逃げているノエルじゃないわ」

武器召喚をして、ノエルはレイピアを通路の先に向かって構えた。兄さん、声をかけられてなんだ、とニックスは答える。ニックスは知っている。ノエルが兄さんとニックスを呼ぶ時は、大体可愛らしいわがままを言う時か、どうしても譲れない事を心に決めた時だ。

「私、とっても強いのよ」
「知っているさ」
「だから兄さん、お願い」
「あぁ」

ニックスはルナフレーナに向き直る。行きましょう、そう告げれば、ルナフレーナは不安そうにノエルを見た。大丈夫です、お嬢は強いんで。そう言えば、ルナフレーナは頷いた。

「ルー」

走り出したルナフレーナは、ノエルに呼びかけられて足を止める。振り返れば、ノエルはこちらを見て微笑んでいた。

「終わったら、すぐに会いに行くから」
「………はい」
暗雲立ち込める