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レストランの店主、タッカが地図に付けてくれた印を頼りに、指定された場所にいたモンスターを倒す。ここのモンスターは弱すぎて倒し甲斐がないからと眉をひそめながら先に行ってしまったノエルを追いかけると、ポケットに入れていた携帯が震える。ハンターが一人、調査に行って帰ってこないらしい。探して欲しいというお願いに快諾し、そばにある木の下でリードペッパーをちぎっていたノエルに声をかけ、ノクトは近くに見えた小屋に入る。レトロなデザインの封筒のそばに置いてあったカードには、この近くで調査している、変異種のブラッドホーンについて書かれていた。

「変異種なんているんだ」
「うぉっ!?」

にゅっ、と隣から現れたノエルに、ノクトはのけぞった。ごめん、苦笑いしたノエルは、ねぇ、とノクトに声をかける。

「なんだ?」
「その探しているハンターの名前ってさ、」
「ノクト、ノエル!」

切羽詰まったイグニスの声に、二人は揃って振り向いた。飛びかかってくるのはトウテツと言うモンスターで、鋭い牙を使い、獲物を巣穴から引きずり出して食べるらしい。戦いながら説明を聞いていたプロンプトは、なにそれ執念深ぁ、と言いながらトウテツに弾を撃ち込んだ。それぞれが武器を呼び出して戦う。応戦するノエルはレイピアを呼び出してトウテツに突き刺していく。足を噛まれたノクトを救助しながら、あたりのトウテツをすべて倒し、小屋の外に出る。左の方向に見えた小屋を、あれじゃねーか?グラディオは指さした。そこに近づけば、ふたたびトウテツが現れる。その量にノクトは眉を顰め、ファイヤを打ち込んだ。真っ黒に焦げたトウテツが転がるのをつま先で蹴り、ノエルは小屋のドアを開ける。部屋の中にいた男性が誰だ!と鋭い声を出した。

「やっぱり、デイヴだったのね」
「……ノエルか、ひさしぶりだな」
「ひさしぶり。こんなとこに居てどうしたの?」

心配そうにしているノエルに、あぁ、とデイヴは頷いた。

「近くに様子のおかしい野獣がいるって聞いてな。倒しに来たんだが、残りあと一匹の時に足をくじいてしまってな」
「大丈夫?」
「あぁ、少し休めば平気だ」
「そう、ならよかった」
「ノエル、頼みがあるんだが」
「ん?」
「あれは危険だ、できれば今のうちに仕留めておきたい。代わりを頼んでもいいか?」

いきなり舞い込んだ依頼。いつもならすぐに承諾していたのだが今日は仲間が一緒にいる。えー、とノエルは言葉に詰まった。くるりと今回の旅における最終決定権を持つノクトを振り返れば、ノクトもイグニスを振り返る。イグニスはしばらく考え込んで、頷いた。どうやらいいらしい。

「いいよ、片付けておくね」
「あぁ、頼む」

ひょこひょこと歩きながら去っていったデイヴを見送って、さて、とノエルは野獣がいるらしい場所に向かって歩き出す。その肩をイグニスが掴んだ。

「待て」
「なによぅ」
「一旦休憩して、体制を整えよう」

イグニスの言葉に向こうを見れば、日はもう既に沈み始め、リード地方は夕日に染まっていた。夜になればシガイが出てきて、何もかもが初心者のノクトたちにとっては危ないだろう。そこまで考えて、ノエルは頷いた。近くにあった標に着けば、嬉々としてグラディオがキャンプ用品を運んでくる。薪を積んで火を灯し、簡易キッチンにテント、五脚の椅子。やっと座れる!しみじみと呟いたプロンプトは、どっかりと椅子に座った。

「ノエル」
「ん?」
「何か食べたいものはあるか?」
「んー、おにぎり」
「わかった」

お米を炊き始めたイグニスをぼんやりと見ていると、そういえば、とプロンプトが声を上げた。どうした、ノクトがプロンプトを見る。

「ノエルも一緒にテントで寝るの?」
「…ふむ、言われてみればそうだな」
「どうするノエル」
「え?」
「え?一緒に寝ねーのか?」
「ちょっ、ノクトォ!?」
「私最初からみんなと同じテントで寝るつもりだった、けど?」

コテンと首をかしげたノエルに、しばらくの沈黙が降りる。まぁ、いいんじゃねーの?とテントを固定するために釘を打ち込んでいるグラディオが言えば、そうだな、とイグニスも自分の作業に戻る。だよな、ノクトもさも当然かのように呟き、スマホの画面に目を戻した。一人だけ残されたプロンプトは、いやいやいや、と頭を振った。

「ダメでしょ!」
「なんで?」
「なんでって、何かあったら…」
「へぇ?プロンプトは私に何かする気なの?」

ノエルがそう言うと、ノクトはスマホの画面からゆっくりと顔を上げてプロンプトを見る。いや何もしないけど!視線が痛い。叫ぶようにそう言ったプロンプトに、じゃあいいじゃない。とノエルは口を尖らせた。







「歩きじゃ限界あるよなー」
「王都育ちだもんね、俺たち」
「車が戻ってくるまでの辛抱だ」

右も左も見渡す限りの平原である。地図と方位磁石を頼りに進む一行は、大きな岩山にたどり着いた。話によると例の野獣がいるのはここらしいけど、ノエルが岩山を見上げながら暑い、と文句を吐く。ジャケット脱げばいじゃねーかよ、とグラディオが言えば、嫌だ、とノエルはグラディオを振り返った。

「んだよ、脱ぎゃいーじゃねーか!」
「いーや!日焼けしたくない!」

どうやら紫外線カットの素材が使われているジャケットらしい。イリスも日焼けしたくないなぁといいながら日焼け止めを塗っていたことを思い出して、女ってのはわかんねーな、とグラディオはガシガシと頭を掻いだ。あたりに注意しながら岩山の間を進めば、明らかにこれであろう、というブラットホーンが見つかった。さっさと済ませよーぜ。飛び出そうとしたノクトを、グラディオが引き止めた。鼻息荒くこちらに向かって突進してきた変異種のブラットホーンを大剣で薙ぎ払う。どしんと大きな音を立てて倒れたブラットホーンに、おおやったスゲェ!とプロンプトは興奮気味に飛び跳ねた。さすが、にやりと笑った二人の前に、ノエルが立つ。手にはグラディオと同じ大剣が握られていた。

「あれ?ノエル?」
「倒せてないよ」
「え?」
「来るぞ!」

イグニスの声に、ノクトとプロンプトは構える姿勢をとる。起き上がってこちらに向かって大きく牙を振ったブラットホーンに、ノエルとグラディオは目を合わせてから大きく大剣を振った。二人分の衝撃に耐えきれずに倒れたブラットホーンに、すかさずプロンプトとイグニスがそれぞれ弾丸と槍をぶち込む。ノクト!大声で叫んだノエルに、はいよ、と答えたノクトは、シフトを使ってブラットホーンにエンジンブレードを突き立てた。弱ったブラットホーンに、五人は目配せをして一気に飛びかかる。人数が多いためか、討伐にはさほど時間はかからなかった。息絶えたブラットホーンから売れるからと牙を折ろうと必死なノエルに、グラディオがゲラゲラと笑いながら手伝う。着信を告げるスマホを取り出して、相手と一言二言話したノクトは、四人を振り返った。

「車、直ったってさ」

一番の歓声を上げたのはプロンプトで、もう歩かずに済む!とはしゃぎながら一番に走り出す。採取したブラットホーンの牙を引きずるノエルが、待ってよ!と怒り、地面にあった小石を拾ってプロンプトめがけて投げる。恐ろしいくらいの精度で後頭部にクリティカルヒットし、プロンプトがうずくまったのをノクトが我慢出来ないと言ったように吹き出した。そんなノクトに、プロンプトはムッとするも、すぐさま恍惚とした表情をした。

「シドニー待ってるかな?レガリアの整備もそろそろおわっー」

不自然に言葉をとぎらせたプロンプトが、空を見上げてなんだぁ!?と素っ頓狂な声をあげる。それにつられてみんな空を見上げると、大きな鳥のモンスターがこちらを向かって飛んできた。そのまま頭上を通過して行ったその鳥は、やがて見えなくなった。デカイ鳥だったな、強いんだろうな、相変わらずグラディオって脳筋なのね。楽しく会話しながら、一行はハンマーヘッドに戻ってきた。
貧乏王子の生活費稼ぎ