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「どうだ?」
「んー、だめだね、これ」

ハンマーヘッドにいるシドニーかシドなら直せると思うけど、私の技術じゃ壊しかねないね。ボンネットを閉めて、ノエルはイグニスを見て肩をすくめる。そうか、とイグニスは困ったようにメガネのフレームを直した。なんでこうなったんだっけー、間延びしたノエルの声に、すみません、とプロンプトが目をそらす。でも、とりあえずハンマーヘッドに押してけばいいんでしょ!というプロンプトに、そうね、とノエルは頷いた。

「そんなに時間かかんないでしょ!地図だとすぐそこだし!」
「…………まぁ、そう思ってんならそう思ってなさいな」
「え?」
「私押さないから」

警備隊の制服のポケットから小さな笛を取り出したノエルは、ピィとそれを吹く。聞き覚えのある音色においそれ、とノクトが全部言い終わるのを待たずに、真っ白い大きな鳥が駆けてきた。プロンプトが目を輝かせる。

「それって!」
「そ、チョコボ」

よいしょ、とチョコボに乗ったノエルは、じゃ、と片手をあげる。

「炎天下の下で車押す趣味なんて無いから先にハンマーヘッドで待ってるね」
「え?え?俺達のチョコボは?」
「無いに決まってるじゃない。このチョコボは私がヒナから育てたマイチョコボ。ちなみに女性しか乗せないからどちらにしろあんたらは乗れない」

お先に〜!ひらひらと手を振ったノエルは、行こうか、とチョコボの頭を撫でる。クェ!と一声鳴いたチョコボは、タッタッタッと軽快な足音を立ててノエルを乗せてノクトたちの目の前から消えた。

「嘘だろ…」

呆然としながらつぶやいたノクトに、ねぇわー、とグラディオがガシガシと頭を掻く。とりあえず、ハンマーヘッドまで押します?恐る恐ると聞いたプロンプトに、それっきゃねーだろ、とグラディオは大きなため息をついた。

「ほんと、ないわ」
「ないよな?えぇ?ノクティス王子」
「調子に乗りすぎたな」
「しょうがないでしょー!?」

車を押しながら進む3人に、運転席にはイグニスが座って電話をかけている。しかしそれに返事は無いようで、イグニスは本日何度目かのため息を吐いた。ハンマーヘッドまだ?と叫んだプロンプトに、まだ距離はあるぜ、とグラディオは言う。世界地図で見るとあんなに近いのに、実際は結構歩かないとつかない事実に、ノクトはしみじみと呟いた。

「世界広いな…」
「実感出来るな」
「この実感やでしょ…」

お前ら押してるか?押してるよ、押してるー!そんな会話をしながらグダグダと車を押すこと一時間弱。ようやくハンマーヘッドに着いた四人は、車庫の隣にあるパラソルの下で悠々と氷菓を食べているノエルを見つけた。おつかれー、ビーチチェアから上半身起こしたノエルは、私の奢りだから好きなアイス食べていいよ、と売店を指さした。それは嬉しいが、今は歩くことでさえ億劫だ。地面に座り込んだプロンプトは、前から近づいてくる影に気付いて顔をあげる。

「おーい、待ってたよ!…えっと、どれが王子?」

やってきたシドニーの声に、ノクトはゆっくりと立ちあがった。ノクトに気付きいたシドニーは、結婚おめでとう、と声をかけてから車をぐるりと見る。あっちゃー、これは時間がかかるやつだ。そうひとりごちたシドニーの横に、シドが立つ。自分をじっくりと上から下まで見るシドに、ノクトは眉を顰めた。

「フン、親父の威厳をそっくり拭き取ったような顔だな」
「は?」
「色々控えた大事な旅なんだろ、もっと締まった顔出来ねぇもんかね」

車に沿って一周回ったシドは、舞い上がった砂埃がついた車をそっと撫でる。

「こいつぁすぐには出来ねぇぞ。中に運んだら適当に遊んでな」

それとノエル。呼ばれたノエルは、あたりと書かれた棒から顔を上げてなに?とシドを見る。

「いくら持ってる」
「一応十万は入ってるし…銀行行けば五十は」
「絶対に貸すなよ」
「えぇー?」
「あとこいつら連れて適当に依頼とってこい」
「りょうかーい」

レガリアを車庫に運び入れると、そうだ、とシドニーが車庫から出てきた。渡された大陸の地図を広げる。世界地図で見ると狭かったリード地方やダスカ地方は、大陸の地図を見ると結構広かったりする。しゃくりとアイスをかじったプロンプトは、ねぇ、とガーディナを指さした。

「俺らって、ここから船に乗ってオルティシエに行くんだよね?」
「うん、だな」
「はぁー、遠いねー」

あ、俺ハズレだわ。何も書かれていない棒にしょんぼりしているプロンプトは、ノクトは?と聞いてくる。俺も外れ。棒を見せると、ですよねーとプロンプトはうんうんと頷いた。そんな二人に、ノエルが近づいた。

「あっ、ノエル!先に一人で行っちゃって!」
「ずりーぞ」

ごめんって。二人に謝ったノエルは、とりあえず何か依頼取ってこようか、と二人を連れて隣にあるレストランに向かう。その前に腹ごしらえだね、と言ってチリコンカンを頼んだノエルにノクトを嫌そうな顔をしたのだが、ニッコリとノエルが笑うと渋々とそれを口に運び始める。大きなため息をついたプロンプトは、恨めしそうにノエルを見た。

「気のせいだと思うけど、外に出た途端、ノエルが厳しくなったような気がする」
「………よくわかったね?」
「やっぱり!」

優しくしてよー、泣きついたプロンプトに、チンタラしてたら死ぬから嫌だよ、とノエルが言い放つ。え?死ぬの?え?顔を真っ青にしたプロンプトをいたわる様に肩を叩き、ノクトはなぁ、とノエルを見る。

「なに?」
「依頼ってなんだ?」
「ハンターとしての仕事だけど?」
「つまりお前の仕事を手伝うのか?」
「ノンノンノン!」

人差し指をピッと立てたノエルは、よーくお聞き?と二人を見る。いつの間にか座っていたイグニスとグラディオも、なんだなんだ、と顔を寄せる。

「今回のレガリア修理代で、あなた達の手持ちは全部飛びました」
「はぁ!?」

大声をあげたノクトに、周りにいた客たちがこちらを見る。うるさいぞノクト。イグニスの説教に、ノクトはそっぽを向いた。

「今回の依頼はむしろ私たちの生活費稼ぎよ」
「お金なら銀行で下ろせるだろ?」
「とーころがどっこい」
「んだよ、まだなんかあんのかよ」
「私達が普段インソムニアで使っているお金は外では使えません」

外で使うのはギルよ。ノエルが財布から取り出した何種類かのお金を、イグニスがまじまじと観察し始めた。まじかよ…呻いたノクトは、いやそれでも、とノエルを見る。

「お前金持ってんだろ」
「残念。シドから貸すなって言われてる」
「じゃあどーすりゃいいんだよ」

だからハンターとして働いて、依頼をこなして、その報酬で過ごすのよ。さっき一番簡単な依頼をちゃんと取ってきたから。WANTED!とモンスターの書かれた紙をひらひらと振ったノエルに、まじか、とノクトは天を仰いだ。
ハンマーヘッドにて