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「おはよーノクトーってうわ!勉強してる!」
「んぁ?」

教科書から顔を上げたノクトは、うわー、裏切られたーと天を仰いでいるプロンプトを見ておはよ、と声をかける。ノクトの前の席に座ったプロンプトは、そう言えば、と空席になっているノクトの隣を見た。

「ノエルは?」
「ん?あー、さぁ?」
「え?知らないの」
「うん。知らねぇ」
「知ってると思ってた」
「あー、でもそろそろ来るんじゃね?」

ほら、というノクトの言葉通り、友人と楽しそうに笑いながらノエルが教室に入ってきた。今度遊びに行くのであろう、手には最近オープンした遊園地のパンフレットが握られていた。そのまま固まって話し出すかと思いきや、友人の輪を離れてノエルは一直線に自分の席に向かい、ノクトの隣に腰掛ける。

「ノエル」
「うん?」
「ここ、マジでわかんねぇ」
「どこ?」

指さされているのは数学の問題で、あぁ、それね。とふぅんと頷いたノエルは、ノクトにペンとノートを取り出すように言ってパンフレットをしまった。

「おはよーノエル」
「おはよープロンプト」
「その遊園地、あの子達と行くの?」
「遊園地?あぁ、あれ?」

机にしまったパンフレットを取り出したノエルは、プロンプトのあの子達の言葉に固まって話している自分の友達を見た。

「行かないよ。一緒に行くのあいつらじゃないし」
「え、そなの?」
「うん…なんか、知らない男子に貰って」
「………え、それデートのお誘いじゃん」
「ね。貰うだけ貰って帰ってきたよ。行くつもりもないし。もーいや。休み時間ごとに代わりがわりで来るの!休み時間だっつーの!休ませろ!」

ふん、と悪態をついたノエルはそうだ、とプロンプトとノクトを見た。パンフレットに挟まっていたチケットを出して、ひらひらと振る。

「三人で行く?ちょうどこれ割引き三人までだから」
「……行く」
「プロンプトは?」
「へっ?えっ!?えっとぉ…行きます」

こういうところは初めて行くらしい。そわそわとしだしたノクトに、よかったねー行きたかったもんねーなんてノエルがにこにこしながら言ってはうっせぇの拗ねられる。それに便乗して楽しみだなーと言ったプロンプトに、まぁ、とノエルが今一番聞きたくない言葉を落とした。

「その前にまず中間テストだけどね」
「うわぁぁ!ノエルの鬼ー!テストなんて嫌だぁぁあ!!」







ノエルが一位でノクトが二位。かろうじて百番台に入れたプロンプトと、三人は今遊園地の入口前に立っていた。テストを終えた開放感と、テスト期間のスパルタなノエルを思い出して震えたプロンプトに、ノクトは労わるようにその肩を優しく叩いた。何か月前に全く同じ経験をしたノクトにとって、あれは恐怖そのものであり、二度と受けたくないものである。おまたせ、と言ってチケットを持ったノエルが帰ってきて、なんだか様子のおかしいプロンプトに首を傾げた。

「どしたの、これ」
「あー、なんか昨日変な夢見たって」

にしてもあっちぃ、とシャツの襟をパタパタさせるノクトに、暑いのならそのパーカー脱げばいいじゃん。とノエルは言う。いや、むりだな、と頭を横に振ったノクトにそっか、とノエルは頷いてノクトのフードを剥いだ。なにすんだよ、とノクトが抗議する前に、ぽすんと何かを被せられる。触ればそれはふわふわした素材で、丸い何かが二つついていた。おぉ似合う似合う!立ち直ってケラケラと笑ったプロンプトはカメラを出してシャッターを切った。

「帽子だよ、顔バレるの嫌なんでしょ?」

王子サマ。ニシシと笑ったノエルの頭を、ノクトは叩いた。早く行こうよ、と急かすプロンプトについて行って、ジェットコースターなどのアトラクションを一通り楽しむ。お化け屋敷で逃げ出したプロンプトを探す、なんてハプニングもあったが。パレードを見ながらポップコーンをつまむノクトの右隣で、ひっきりなしにカメラのシャッターを切るプロンプト。その左では、ノエルが何度か目のため息をついた。今日の中で一番大きなため息に、ノクトは思わずノエルを見た。その視線に気付き、ノエルは申し訳なさそうにした。

「あー、うん。ごめん」
「どうしたんだよ」
「あー、いや」
「なんだよ」

王子命令。言え。ムスッとしてそう言ったノクトに、はぁ、とノエルは再びため息をついた。ここではあまり言いたくない話らしく、パレードから抜け出して近くのレストランに入り、とりあえずと食べ物を注文する。去っていくウェイターを見送って、で?とノクトがノエルを見た。訳も分からずに連れてこられたプロンプトは、きょとんとしながらふたりを見比べた。

「いや、言うほどの事じゃないけど、」
「だから言えつってんだろ」
「…なんというか、まぁ、将来の事を」
「将来?」
「うん、結婚、とか?」

うーん、と悩むノエルの前で、ノクトは少し顔を歪めた。そんなノクトの様子に気付いたプロンプトは、あれ、と目を瞬かせる。ちょっと、怒ってる?

「……………で?」
「近々見合いする事になって」
「なんで」
「なんでって…そりゃノクトの子供…次の王の面倒は誰が見るかって話しじゃん」
「お前が見りゃいいじゃん」
「私が死んだら?」
「その頃にはもう大人だろ」
「またその子供は?」
「………………」

黙ったノクトに、まぁうちの代わりなんて探せばいくらでもいるけど、アロレックスのはなくなると大変だしとノエルは肩を竦めた。お見合いかー、ノエルも一応はお嬢様なんだね、と言ったプロンプトに、まぁ一応は、とノエルが返すが、ブブブ、というスマホのバイブ音に遮られた。嫌そうな顔をして、ノエルは携帯を取り出す。

「それと話変わるけど男子からのメールがウザイ」

一部の人たちの話だけどね。と何度目か震えたスマホを取り出して、ノエルは電源を切った。

「モテるもんねー、ノエル」
「嬉しくないわね。せめて高校在学中だけでいいから彼氏が欲しい」
「虫よけ用?」
「そそそ、虫よけ?用…虫避けって…」

遊園地のレストランでなんて話してんだか、可笑しそうに笑ったノエルに、そうだね、とプロンプトも笑う。食事が来るまでプロンプトの撮った写真が見たいと言い出したノエルに、プロンプトは快くカメラを渡した。二人で画面を見ながらあーでもないこーでもないと楽しそうにしているふたりをぼんやりと見て、なぁ、とノクトは声をかけた。

「なに?」
「………俺さ、」
「うん?」
「いや、うん」
「何一人で納得してんの」
「ノエル」
「なぁに」
「見合い、行かなくていーよ」
「あのねぇ」
「だってお前まだ若いだろ」
「あんたもね」
「気が早くねぇか?結婚とか」
「ノクトも人のこと言えないんじゃ?」
「別に。そーいや言ってなかったけど、ルーナとの話、延期になった」
「は?」

ルーナ?ルナフレーナ。え、なんかあったの?婚約して…た?ええっ?いや延期してるし。だから今俺フリー。フリー…、王子がフリーって言葉使った。お前人のことなんだと思ってんだよ。いやぁ、あの、あはは。苦笑いしたプロンプトは、ちょっと構えているノクトを見て、少し確信した。

「ノクトのバカ」
「え?」
「スカポンタン」
「は?」
「ばぁーか!」

そう吐き捨てるなり勢いよく席を立ち上がって店から出たノエルはちょっと膨れていて。今だけなら俺の名探偵になれるかもしれない。全てを察したプロンプトは、何が正解なんだよ、と机に突っ伏したノクトの肩を、朝されたように優しく叩いた。
あの夜のいくじなし