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「つーわけだ。っておい、あんまりしんみりすんなよ。ただの昔話だ。お前らが気に病むことじゃねぇ」
「あの、先輩、覚えてますか?」
突然、菜穂が口を開く。
「なんだ?」
「木吉先輩との1on1の後、誰かに声、かけられませんでしたか?」
そう言われて、日向は少し記憶に浸る。
『あのぉ…日向さん、ですよね?』
『ん?あ?誰だ』
ボールを持って、立ち尽くしている日向に声をかけて来たのは女子だった。水色のブラウスに黒いスカート、黒い紐リボンにブラウン色のふわふわとした髪が風になびいている。
『あ、いや、あの。うん、通行人Aです』
『はぁ…って答えになってねーだろが!』
『うわぁぅ!あの!すいません!一言いいですか!』
そう言って深呼吸を一つしたその子は少しはにかみながら言った。
『私、バスケをしてる日向さんが、その、好きですよ?キセキの世代と比べちゃったら、霞んでしまうんですけど』
『オイ』
『あ、でも!やっぱり、日向さんに金髪で、長髪は似合わないです。短くて、黒い日向さんが好きです。前、みたいにどんどん食らいついて行く姿が好きです。だから、あの、その…なんていうか…』
そうやって上げた顔を見て、日向は少しびっくりした。
その子はまるで自分が何かをしてしまって、申し訳なさそうな、悲しそうな顔をしていた。
『バスケ、続けてください!何度も言ってますけど、私、日向さんのプレイ好きなんです!じゃあっ!』
『あ、オイ!』
バダバタと走り去った女の子の先にはさっきまでいなかった男子の姿が。
『あの制服って、たしか…帝光…』
怖かったよ〜テツヤ!
はいはい、よく頑張りましたね。
と何やら親しげな会話をした二人はゆっくりとその場を立ち去った。
「え、待て、あれ、お前らだったのか?」
「「はい」」
「え、」
日向は途端に、顔が赤くなるのがわかった。
「私、好きだっんですよ〜日向先輩のプレイ」
「あ…そうか。」
がっくりとうなだれる。火神と黒子から呆れた目、で見られているのはどことなく察してる。
「だから、今誠凛にいて、テツヤがいて、火神君がいて、降旗くんや河原くん、福田くんや2号がいて、日向先輩、伊月先輩、木吉先輩に小金井先輩、水戸部先輩、土田先輩、あとリコ先輩がいて、それで私が誠凛バスケ部のマネージャーやってて、みんなのことをサポートできて、バスケが大好きなみんなのプレーが見れて、とても、とても幸せなんです」
ね、とテツヤにむかって菜穂は嬉しそうに笑う。
「そうか、ありがとな。通行人A」
「通行人Aじゃないです!ちゃんと、奥宮菜穂って名前があるじゃないですか!」
「はいはい、ありがとよ、奥宮」
へへ、と恥ずかしそうに笑う菜穂を見て、日向はぽんぽんと頭を撫でた。
「でもまぁ、ただ、」
日向がしばらく伏せた目をあげる。そこには強い闘志が秘められていた。
「木吉と一緒にやれるのは今年だけだ。悔いは残したくないと思ってる」
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