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秋も過ぎ、肌寒くなってきた11月。
鈴虫がリンリンと鳴いていた。
「なに?急に話したいなんて。予選直前になって、腰引けちゃった?」
「んなわけねぇっつの!つか…」
日向はさら、と風に靡いたリコの髪を見た。
手を伸ばしたい衝動を抑える。
「髪、伸びたな」
そうだね、とリコは髪を掬う。
「まぁ、ね。願掛け」
そう笑って、リコはゆびで神を絡めて、くるくると遊ぶ。
「全国大会出るまで切らない事にしたの。ロングになんて、させないでよ?鬱陶しいんだから!」
「分かってるよ。むしろ冷静すぎるくらいに落ち着いている。
そう言って、日向は空を仰いだ。
「やれることは全てやった。後は全部、出すだけだ」
「うん……頑張ろう!」
顔を見合わせて、ふふ、と笑う二人を見る影が一組、躊躇いもなく声を掛けた。黒子と菜穂だ。
「すみませんがカントク、キャプテン」
「その糖尿病になりそうなくらいあまーいストロベリータイムはウィンターカップが終わってからにしませんか?」
まるで暗闇から浮かび上がるようにして出てくる二人に、リコと日向はビビった。
「……うわあっ!ってか、お前らも仲いいじゃねーかよ」
そう言って、目線は絡められた黒子と菜穂の腕へと向かう。
それに気づいた黒子はあぁ、というように頷いた。
「幼馴染ですので」
「今日は久しぶりにテツヤのお家にお泊まりするんですよ〜」
ふふ、と嬉しそうに笑う菜穂に、一瞬、あーんなことやこーんなことを日向は思い浮かべたが、後ろから聞こえてくる咳払いに慌てた。
「そうですね、早く帰らないと母さんが心配するので、帰りましょうか」
「うん、じゃあ、先輩頑張ってくださいね。応援してますよ」
バイバーイと手を振りながら去って行く菜穂に手を振り返して、二人は再び顔を見合わせて笑った。
「ってか、何を頑張るんだよ」

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