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「あの、今吉さん、あんなこと言って大丈夫だったんですか?」
「何や良、勝てんと思っとんのか?」
よろしゅう発言をした今吉御一行様は見事にサウナ対決で負け、(主に若松のせいだが、)誠凛にジュースをおごる羽目になった。風呂をあがって、自販機で待機すると言った青峰をついでに拾って帰りたかったのだが、そこには青峰はおらず、フロントに話を聞くとどうやら外で女子とバスケをしている。と聞いて、耳を疑った。
「青峰が、バスケ?しかも女子ととか…」
あいつ、強くなりすぎてついに狂ったと違うか?と若松は言うが、桃井はどうやら心当たりがあるらしく、黙り込んだ。
「なんや桃井、自分、心当たりあるんか?」
「えぇ、菜穂ちゃんかな…と」
「菜穂ちゃん?そら誰や」
そう言いながら、足はストバスへ向かう。青峰がわざわざ試合以外でバスケする相手が気になったんだろう。心なしか歩くペースが早い。
「菜穂ちゃん…奥宮菜穂ちゃんでです。私と同じ帝光のマネでしたけど、バスケがとても上手いんですよ」
「へー…そら」
「ちなみに、今の今まで、青峰くんが勝てた事が無いんですよ」
「え、」
「「「は?」」」
そんなの、聞き間違いやろ。
と今吉は思った。
「何言うとんねん、最強はあおみ……」
ガコンッ
小気味のいい音が空気を震わす。
どうやらもうコートに着いたようだった。
「ざんねーん!青峰くん、これでもう3点目ですよーん」
「ざっけんなもう一回だっ!」
ぶらりとリングにぶら下がった菜穂を笑いながら引き摺り下ろす青峰。
そして素早く体制を整え、軽くゾーンに入ったと見受けられる青峰が素早いドリブルで抜こうとしたが、菜穂が手を横に出すとたちまちスティールされる。
「本当、バカだなぁ〜」
「ちょっ、お前っ!待てコラ。ってかオレバカじゃねーし!」
「え、やだよ。ってうわっ、それ反則!背の違いを考えて!」
正面に回り込んで包み込むように菜穂を囲んでスティールしようとするが、するりと交わされ、菜穂は後ろに下がる。そこからシュートの体制に入る。
「あー…こりゃ青峰負けんな」
「火神ぃ!?」
「あー、ちわっす。桐皇の……」
誰だっけな、とボリボリ頭を掻く火神の横腹に手刀をいれる黒子。
「今吉さん」
「そうだ、今吉サン」
そう言って、視線をまたコートへ戻す。今吉もつられて見る。
「は、そこからとか緑間かよ」
「え、何言ったの?」
「聞く気ねぇし!ってか止めるし」
「ざんねーん!これバ火神でも止められないんだよ」
打ち出された3Pは何時ぞや火神が止められなかった高いループのシュート。野外で天井も無いのでさらに高くなっているが。
シュッ、とボールはリングに一切触れず、綺麗に入った。それを見て、菜穂は満足そうに笑った。
「ほらほらぁ、私疲れたからもうおしまいね?」
「はぁーっ、やっぱ敵わねぇな。お前、男だったら良かったのによぉ」
わしわしと頭を撫でる青峰の目はどこか残念そうな色が滲む。
「あらやだよ。それじゃ面白くも何ともないでしょー?もしかしたら私が青峰みたいになっちゃうかもしんないよー?」
クスクスと青峰のスクイズボトルを取り上げて菜穂は飲む。
それを見て、やれやれ、と青峰は笑った。
「ったく、どこまであいつに似てんだか。やっぱコンヤクシャ様は似るな」
「へ?コンヤクシャ様って」
「んあ?赤司じゃねーの?」
「へ?征?違う違う。とっくに解消したよ。今の征と結婚なんてまっぴらごめんだね。まぁ、せいぜい友達止まりかな。」
後ろで、黒子がピクリと動いた。
「えっ!菜穂ちゃん、赤司くんと婚約解消したの!?」
バタバタと走る音がする。声からしてどうやら桃井らしい。
ガシリと掴まれて、ぐらぐらと前後に揺らされる。はっきり言って、運動後にこれは辛い。と言うか、酔う。
「落ち着いて、さつき…っぷ」
「あ、わっ、ごめんね?大丈夫?」
ゆっくりと背中を撫でられて、少し落ち着く。
「奥宮菜穂ちゃんかのぅ?」
突然声をかけられて、ビクリとする。上を向くと狐目の名にやら性格の悪そうな人が立っている。
「ワシは桐皇学園のキャプテン、今吉翔一や。以後よろしゅうな?」
何か、気に食わない。
そう思った菜穂はどこか棘があるような言葉を吐く。
「どうも、誠凛高校バスケ部のマネージャーをやらせていただいてます!奥宮菜穂です!」
睨む菜穂と笑う今吉。二人の間にはばちばちと火花が散り、何やらおかしな雰囲気になっていた。

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