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「あ、菜穂ちんだー」
氷室に突然変えられた待ち合わせ場所へ向かう途中、紫原は中学の頃に親しかった、今はここにいないはずの少女に会い、思わず声を掛けた。
少女はこちらに振り向き、紫原を見つけると、嬉しそうに笑った。
「あっくん、久しぶりだねぇ〜」
「うんうん久しぶり〜。ところでさ〜菜穂ちん、なんでいんの?ってかどこ行こうとしてんの?」
その問いかけに菜穂は苦笑した。
「何でここにいんのって、酷くない?帰って来たの。それで、行き先はこの近くでやってるストバス大会の会場だよ」
「ストバス…?ってあれー?偶然だねぇ〜俺も俺も〜!急に待ち合わせ場所変えようって室ちんが言っちゃってさ〜。いくら俺が東京に住んでるからって、東京の隅から隅まで詳しいわけじゃないしぃ〜」
しゃくしゃく、ポロポロとまいう棒を食べる紫原を見て、菜穂はまぁまぁ、と宥めるが、効かなかったようだ。
「東京観光したいってそっち言ったのにさ〜ドタキャンされてストバスだよ〜?うちの学校草試合禁止だしさ〜しかも俺迷子だし。そんなんで俺が東京観光案内できるとでも思ってんのかな〜?」
さっきのまいう棒は食べ終わったらしく、またゴソゴソとポッキーを取り出した紫原をみて、相変わらずだなぁ、とか思う。
「私だって、小さい頃から東京にいるけど、そんなに詳しくないよ。あえて言うなら地元だよね」
「そんなもんでしょ〜?俺だって昨日初めて六本木行ったわけだし〜。ってか菜穂ちん、ポッキーいる?」
相変わらずのマイペースに笑いつつ、差し出されたポッキーを咥えると、紫原は嬉しそうに笑って、頭をくしゃくしゃと撫でてきた。
「……ちょっ、やめ!………ところでさ、室ちんって?」
うわぁ、菜穂ちんも相変わらずのマイペース…なんて紫原はポッキーを一気に5本咀嚼し、嚥下した。
「室ちんは室ちんだよ〜チームメイト〜」
「へぇ、」
「あ、ほらあそこだよ〜」
コートで審判の投げたボールは紫原にとって手を思い切り伸ばさなくても届く距離だったらしく、上手に飛んだままのボールの上にまいう棒をおく様子を見て、菜穂は本日何度目かの苦笑を漏らした。

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