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「はぁ、いいお湯………ん?」
チャプリとお湯に浸かった菜穂は隣の男湯が騒がしいことに気づいた。時々聞こえる日向の悲鳴や伊月の怒声、バジャバシャた小金井が湯の中で泳ぐ音、そしてなぜが気持ち良さそうに鳴く2号の声を聞いてクスと笑ったが、途中で女子大生団体、もとい菜穂の兄が所属しているバスケサークルの合同合宿に参加している人達が入って来たので、楽しく話を弾ませようとしていた、のだが…
「菜穂ちゃん?どうかしたの?」
菜穂のささやかな異変に気づいて、楽しくお話をしていた兄の彼女が問いかける。
「あぁ、いえ、なんでも…」
耳を済ませると、男湯から何やら聞こえてくる。しかも近い。

「発進!」
「おーい、何処へだ!?」
「そんなの、決まってるだろ」
「いい顔で言うな!」
「バカヤロウ!」
「なんで日向も発進すんだよ!」
「伊月はイーグルアイあるからいいだろ!」
「そーゆースキルじゃねーよあれは!」
「リコがいたら殺されるぞ。まじ」
「木吉は黙って、そ、そうだよね!ん?黒子ぉっ!」
「すみません。ちょっと、逆上せました」
「先上がってろ、火神、着いてってやれ」
「えー」
「どうしよう…」
「あー…困った〜」
「「覗きのスペシャリストが消えたー」」
「ミスディレクションもそういうスキルじゃねーよ!」

「こんにゃろ…先輩…」
どうやら女湯を覗こうという魂胆らしい。日向が覗こうと言う魂胆なのに驚きつつも、止めようとしてくれる木吉と意外に常識人の伊月に心の中で感謝しながら菜穂は彼女さんに声を掛ける。
「優梨さん、」
「あら、お姉さん、でいいのよ?」
どこまでも菜穂フリークな兄夫婦(仮)を見てげんなりとしたが、ここで時間を食っては生死に関わる。
「お姉さん、みんな連れて、ここ出ましょう?となりのお風呂はもっと種類があるみたいですし…」
「まぁ、菜穂ちゃんがそう言うなら間違いないわね!みんな、隣のお風呂に行くわよ〜」
兄の彼女により、女子大生グループは居なくなった。
「さて、と…」
菜穂は置いてある椅子や桶やらを積み上げ始めた。

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