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自販機に120円を入れた緑間はおしるこを購入しようとボタンを押そうとしたが、先に誰かにえいっと押されてしまった。
ガコン、と缶が転がり出たのを取り出して、差し出された。
「これでしょ?久しぶり〜みどりん」
桃井であった。
「ま、悪くない試合だったんじゃないスか?」
黄瀬が近づいてくる。

「次の試合、勝てばウィンターカップ、間違ってもコケちゃダメッスよ?」
三人で会場を出ながら話す。桃井は聞き手に徹したが。
「ありえないのだよ。くだらないことを言うな、バカめ」
「バカとはなんスか!」
会場を出て、緑間は立ち止まった。
「そんな心配をするなら、言う相手が違うだろ」
振り返り、
「次の誠凛の相手は、霧崎第一」
忌々しそうに吐き出した。
「花宮真だ」
クイとメガネのブリッジを挙げて話す。
「この決勝リーグ、奴が誠凛戦に照準を合わせて来ているのは明らか。勝つために必ず何かしてくるのはずなのだよ」
そう言われて、黄瀬も嫌そうに眉を顰める。
「無冠の五将の一人、また厄介な奴が相手ッスね…」
話はそこまでだ、と緑間は言う。
「もう俺は行く。じゃあな」
「え?もう?せっかく久しぶりに会ったのにぃー?」
慌てて追いかけて外へ出るとそこにはチャリアカーが。
「うわっ、なんスか、これ…!」
信じられない、と言うような顔でそれを見つめる黄瀬。
それに対し、緑間はどこ吹く風。まったく気にしていない。
「見ての通りなのだよ高尾に引かせ」
わんっ!
わん?
話を遮られた緑間はリアカーのなかをのぞいた。その後に桃井と黄瀬も続く。
シベリアンハスキー、である。
「ワンちゃん可愛い!ユニフォーム着てる〜!」
「はしゃぎ過ぎッスよ、桃っち」
抱き上げてキラキラとした顔で犬を見つめる桃井。以前、4ヶ月程前会ったことがあるのだが、すっかり忘れたらしい。
「ガーン!その犬、俺のリアカーに小便しているのだよ!貸せ!」
激怒した緑間はその犬を打とうとしていた。
「すみません、その犬、うちのです」
わんっ!
「テツヤ!!」
その犬、もとい2号はすぐさま桃井から離れ、誠凛のバスケ部の中でも一番なついている黒子の元へ駆け寄った。2号を抱き上げた黒子は犬を捕獲してくれた人たちを見て、
「あれ」
「テツくん!」
「黒子っち!」
「黒子…」
「みなさん…んっ。どうしたんてますか?」
テツくんにそっくりな犬がテツくんにっ!はうぁっ!桃井が2号か黒子にじゃれ合うのを見て失神した。

「んで!?」
「それでね、それは湯けむりおしるこ殺人事件と名付けられたのであった!って言う」
「ブフォ。真ちゃんっ、人殺しちゃあかんよぉ〜、お、いたいた、真ちゃーん!」
「ほんとだ、テツヤ!2号見つかったのね」
お互いの探し人を探して合流した菜穂と高尾は中学の緑間の武勇伝を語りながらやって来た。
「おい奥宮、何を話した。」
「え、合宿中にそこの涼くんが真太郎くんのラッキーアイテムの方のおしるこ飲んじゃって次の日頭に3P打たれてしばらく起きれなかった話…あー!思い出しただけでもお腹が痛い!」
「ほら菜穂、捕まっててください」
にっこにっこと笑う菜穂と再起不能になっている高尾。固まる緑間。そして世も末と言う顔をする黄瀬は助けを乞うが、残念ながら彼を助けてくれる人は今のところいなかった。
「ちょっ!オレの黒歴史勝手に話さないでくれないスか!?菜穂っち!!しかもそこのってなんス!そこのって!」
「はいはい、涼くん久しぶり。」
「軽い、軽いッス!」
軽々しい挨拶に黄瀬はおよよと泣くフリをするが、黒子達に哀れな目を向けられるだけだった。
「くだらん、俺はもう帰るのだよ。高尾」
「え、いいのかよ!?ちょっ、真ちゃん待ちなって…あ、菜穂チャン、今度一緒にお茶行こーぜ!」
「ほいほーい!じゃあ!一日三回までのわがままを聞いてもらえるツンデレメガネのおは朝真ちゃんまたね〜」
「ブフォッ!」
「何ですかそれ。あとで詳しく教えて下さい」
「ガッテム!!」
「言いふらすななのだよ!!菜穂!…ところで黒子」
相変わらずいつものペースの高尾とそれに面白がって乗っかる菜穂。もし緑間がこの2人同じ学校に居たら必ず胃炎にかかってるだろう。帰ったら高尾の頭に3P打とうか、物騒なことを緑間は考えながら歩き出す。
「ウィンターカップで、またやろう」
黒子は振り向き、いつものよく読めない表情で、「はい」と答えた。

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