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雨が、降っている。
全員が出払った暗い控え室に座っている緑間に、誰かが近づいた。
「そーいや、前も雨、降ってたな」
ちらり、と緑間が高尾を見た。
「時間だよ、真太郎くん」
立ち上がって、動きだそうとしていた緑間は、突如聞こえた第三者の声に足を止めた。
「奥宮、か?」
高尾の後ろからひょっこりと出てきた誠凛の制服を着た菜穂を見て、緑間は少しばかり目を鋭くする。
「おじいちゃんの学校なの」
「そうか、」
おそらく、彼は思っていたのだろう。頭が良く、運動も出来ていた菜穂が、なぜ黒子と一緒に新設校である誠凛にいるのか、と。謎が解けて、顔が幾分か柔らかくなった。
「真太郎くん、」
「なんだ」
菜穂は、笑ながら言った。
「ぜぇーったい、絶対、負けないから」
「あぁ、こっちこそ勝ってやるのだよ」
緑間は菜穂の前に立ち、見据えた。
「勝っても負けても恨みっこなしだからね」
(うわっ、おもしろっ…)
菜穂を見下ろす緑間と緑間を見上げる菜穂を見て、ヒューと高尾はニヤニヤと笑いながら口笛を吹いた。
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決勝リーグの最注目カードだ、なんて囁かれながら出てきた誠凛と秀徳は、お互い譲らない雰囲気で、何処かピリピリしていた。
「火神君、入場のとき、緑間君の顔、みましたか?」
「あぁ、前とはまるで別人だった」
隣で靴紐を結んでいた木吉が話だした。
「今まで戦ったキセキの世代は、無敗ゆえにどこかスマートさが残っていた。価値ある敗戦とか、負けて強くなるとかいう時があるが、どういう意味かわかるか?」
そう問いかけられて、火神は答えあぐねる。
「本来生物にとって勝利は生、敗北は死を意味する。例えとしては極端だが、事実、人間の本質にもそれは残っている。敗北の恐怖を知った人間は、勝利に、飢える」
そう言って、秀徳のベンチを目を向けた。
「菜穂ちゃん、」
「なんでしょうか、リコ先輩」
「この試合、どうなると思う?」
ドリンクやらタオルやらを準備しながら試合の開始を待っている菜穂に、リコは冗談半分で訊いてみた。
菜穂はしばらくポカンとしていたが、険しい表情になった。
「あ、別にどうとかじゃないの、菜穂ちゃんの意見が聞きたいなー?なんて…」
「あ、いえ、別に怒ってはないです。ただ、」
「ただ?」
「火神くんは、何回飛べるのだろう…と」
「え?」
「さっき、昔のよしみで秀徳の控え室に緑間くんに会いにいったんです」
「あなた、結構大胆ね…」
「あはは…それで、」
思い返されるのは、さっきのこと。
『奥宮、』
『なぁに?真ちゃん』
『なっ、高尾ぉっ!何を教えた!』
『ブフォッ!ウケる!』
『ふふ、真太郎くんがここまで慌てるの、珍しいね、で、何?真太郎くん』
『火神のバカに伝えておけ。お前は、いつまで持つだろうな。と』
「いつまで持つだろうな?」
「はい」
「どういう意味?」
「推測でしかないんですけど、秀徳、特に真た…緑間くん個人は新技、という点では何もしていない、ということです」
ふぅ、と一息吐く。以前見せてもらった試合の映像や練習や試合中の火神を思い浮かべる。
「つまり、緑間くんは今回、より多くのシュートを撃てるために、体力アップをしてきたはずです。新しくて、まだ使い慣れていない不安定な状態の技を習得した火神くんとは違う」
「まさか、」
「恐らくそのまさかです。緑間くんは、火神くんが飛べなくなるまでシュートを打つのだろうと思っています。なのでぶっちゃけ今は不安です」
そこまで言い終えると、頭にげんこつが落ちてきた。
「不安がってんじゃねーや、ダァホ」
「いたっ、キャプテン!」
「こっぴどく負けた事があるのは向こうだけじゃねーだろ!」
「あぁ、そうだな」
木吉の手が、ぽんと菜穂の頭に乗った。
「負けるのなんざ、一度で沢山だ。腹ペコなのは…」
火神が立ち上がり、挑戦的な視線を秀徳にむけた。
「こっちも一緒です」
リストバンドをつけた黒子が立ち上がった。
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「悪りぃけど、今回あいつお前に構うゆとりはないぞ」
背後から近づいてきた高尾を、黒子は驚かずに見つめた。高尾は言葉を続ける。
「前回と違って、あいつは完全に火神をライバルとして認めている。そんでそれは俺も、先輩達も一緒だ」
「嬉しいです」
高尾に向き直り、黒子は高尾をまっすぐ見つめ、告げる。
「だったら尚更負けられません」
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わぁわぁと歓声に包まれた会場に、一人の男が入ってきた。
蜂蜜色の髪をくしゃりと掻き上げて、両校のベンチを見るが、ある一点で、目が止まった。
「え、菜穂っち…?」
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