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「先攻、どうぞ?」
火神の脳では、バスケにおいては、レディーファーストとという言葉はないらしい。ドリブルで菜穂を抜いた火神は、ダンクをかました。
おぉ、やっぱすげーな、などと小さなどよめきが走り、火神はどうだ、という風に後ろへ振り向いたが、菜穂はただセンターサークルから一歩も動かないで、ただただこちらを見ているだけだった。そのことに対して、火神は腹を立てた。
「んだよ、強いってのは口だけだったのかよ」
「違う。あと一点取らせてあげるから、早く」
随分上からの言い方にさらに腹を立てた火神は、3Pラインに戻って、シュートを打って帰ってきた。
「これで2-0だよ、どうすんの」
「何言ってるの。むしろこれからだよ?」
そう言って、菜穂はボールをゆっくりと突いて、
消えた。
「チェンジオブペース!?」
伊月が素っ頓狂な声を出した。
男と女の体力の差か、いくらかは青峰よりはゆっくりに見えるが、それでももし試合で1on1する状況になったら、まずいことになる。
話を戻すが、桐皇に一回負けて、雪辱を晴らそうとしている火神がそれに追いつけないはずがなかった。
「待ちな…って!」
素早く菜穂の前に回り込み、スティールしようとしたが、あっさりと躱されてしまった。
身体の大きい火神は、小柄な菜穂のちょこまかとした動きにフラストレーションを溜めつつあった。

「ねぇ、黒子くん」
「はい、なんでしょう」
「青峰くんが菜穂ちゃんに勝てな勝ったのって、こういうことなの?」
追いかけっこを始めた火神と菜穂を見て、リコは頬をひきつらせた。
「いえ、これは火神くんで遊んでいるだけですよ」
これで遊んでいるって…と驚きを隠せないリコの視線の先では、緑間並みの高いループを描いたボールがゴールに入った。
「すげぇ…キセキの世代かよ……」
ポツリと日向はつぶやいた。
コートでは、ボールがちょうど火神に渡り、ちょうどダンクを決めようとしていたところだったはずなのだが、
パシン、とボールが弾かれる音がした。
「身長の高さを利用としてない?まさか、空中戦なら勝てるなどと思っていないだろうな」
いつか聞いた台詞だった。
あの緑頭のメガネ野郎だ。と火神は頭の何処かで思う。それにしても、
なんつージャンプ力だ…
素早く着地した菜穂はボールを手に取り、そのままレイアップを一つ決めて、振り返る。
「なんて、同じこと、真太郎君にも言われなかった?」
技よし、フィジカルよし、ただ、バカなのよねぇ。大輝と同じぐらい頭が悪くても、センスは大輝の方が今のところ上だわ。少なくとも、大輝は一回言っただけでちゃんと理解して次には直ってるもの。
「そのダンク、ぜんぶ真太郎くんに止められたでしょ」
ダムダムとボールを突いて、センターサークルに菜穂が戻ってくる。
それでも負けず食らいついてくる火神を見て、口角を上げた。
ぞくり、とする笑みだった。
「バカだねぇ、本当」
少し動きが鈍くなった火神を抜いてた菜穂はそのままゴールに向かって走り、
ガコンッ!
「うそ、だろ…」
「レーンアップする女子なんて、高校生で見たこと無いよ…」
視線のはリングにぶら下がってゆらゆらと揺れている菜穂に集まる。
軽やかな動きで着地した菜穂はどんどんと靴のつま先を地面に打ち付け、得意そうに笑った。
「三本先取、でしょ?私の勝ちね」

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