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夏の暑さはまだまだ続いている。
その暑さに負けない位動く部員と菜穂。ドリンクも、気づけば満タンになってるし、タオルもキレイに洗われている。カントクが不在の時も、一人一人の練習量を把握して、バテるとドリンクやタオルを渡しながら励ましの言葉をかけて、残りのノルマを教えてくれる。
文句なしのマネージャーの働きっぷりに、バスケ部全員感謝感激雨霰状態であった。

「よく働く子ねぇ」
「そうですね。帝光より部員が少ない上に、アクのある人間はいませんので」
「相変わらずの影の薄さね。まぁ、キセキの世代に比べちゃうと、ねぇ」
数値をとっているリコの横に、バテてしまった黒子が倒れこむ。もはや日常茶飯事となっているので、リコもすっかりと慣れてしまった。そこに菜穂が近づき、タオルとドリンクを渡した。
「干からびる前に、ほら」
「ありがとうございます」
「何年テツヤの世話してると思ってるの。シャトランがあとワンセット残ってるから体力が戻り次第行きなさいよ」
「あ、そういえば菜穂ちゃん」
なくなりかけているドリンクと、洗濯物を洗いに体育館を出ようとしている菜穂を、リコは呼び止める。
「なんでしょうか?リコ先輩」
「菜穂ちゃん、バスケできるって黒子くんに聞いたんだけど、本当?」
「………?できますけど?」
「強い?」
「…それ、聞いちゃいますか?」
使い終わったタオルの入ったカゴに、幾つかのスクイズボトルを入れて持ったまま、菜穂はいたずらっぽく笑った。黒子は息を切らせながら、爆弾発言を落とす。
「菜穂は、強いですよ。青峰くんでさえ、菜穂に勝ったことがありません」
一瞬にして、体育館が静まる。声は体育館中に響いた。テンテンッとボールの転がる音と、蝉の大合唱がこだました。
「青峰くんでさえ、勝った事が無い?」
「はい」
「ちょっ、テツヤ!なんてこと…!」
顔を赤くした菜穂は慌てて逃げる黒子を追いかけるが、途中で誰かに止められる。
火神であった。
「俺と1on1しろ」
そう言われて、菜穂はたじろぐ。
「ほら、でも私制服だし」
「制服で十分ですよ。セーラー服は動きやすいですし。体操着なんざに着替えられたらいよいよ火神くんの勝ち目がなくなってしまいます」
「はっ、嘘だろ絶対」
ありえない、というような目を火神にされた菜穂は、心外だ、と少しばかり心の中で怒る。
ふぅ、と一息吐いて、菜穂はカゴを地面に置いた。
「やるのか?」
「そもそも俺と1on1やれって言ったのは、誰でしたっけ?それに、ナメられては困るからさ」
カゴからボールを一つ取り出して、体育館の真ん中に向かって歩き出す菜穂。
「ちょっと、菜穂ちゃん、7号で大丈夫なの?」
「はい、むしろ7号の方がしっくりくるんですよ」
ダメダムとドリブルをして、ボールの感触を確かめる。
火神もコートの真ん中へ進み出る。菜穂はビシッと、指を三本立てた。
「三本先取ね」
「はっ、負ける気がしねーよ」
「勝ってからにしてよね」
ひょいとボールを火神に向かって投げた。

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