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「はい、どうぞ」
「…ありがとう」
身体を温めるために黒子が校内の自販で買ったカフェオレを渡すと、桃井はそれを受け取った。
「カントク、これは一体…」
「それがね…」
降旗の問いかけに答えようとしたリコを遮ったのは、ペナルティとして雨の中、外周を走らされた二年生達である。降旗がそれを見て、うげっ、と声を漏らす。
「それで、何があったんですか?桃井さん」
その光景を見ながら、黒子は桃井に聞いたのだが、返答は菜穂から帰ってきた。
「どうせまたあのアホと喧嘩したんでしょ?」
それを聞いた桃井は悲しそうにうん、と頷く。
「どうしよ…テツくん、菜穂ちゃん、私、青峰君に嫌われちゃったかもしれない!」
「「へ?」」
「青峰くん、今年のIH、準決勝、決勝と欠場したの」
「らしーな、でもなんで」
水気を拭き取りながら、日向は桃井に問いかける。
「故障です。主に肘の…」
「ふーん、まぁ、何と無く察しはついてたわ。原因はおそらく、黄瀬くんとやった海常の準々決勝ね」
「そうです…さすがですね。Bなのに…」
「胸関係あるかぁ小娘ぇー!」
慌てて胸を隠すリコを横目に、菜穂はくいくいと黒子の服の裾を引っ張った。
「涼くん、ついに大輝とやったの?」
「えぇまぁ。結局青峰くんが勝ちましたけど」
「へぇ」
それで?とリコは続きを問うが、黒子がそれを遮るように話し始めた。
「キセキの世代と呼ばれる五人に、弱点があるとすれば、それは才能が大きすぎることです」
驚く部員を見て、黒子は静かに淡々と言葉を続ける。
「キセキの世代は全員、高校生離れした力を持っています。けど、身体が出来上がっていない為。現段階では、その才能に身体が追いついていない。だから、無制限に力を全開に出来ません。もしすれば、反動で確実に体を痛めます」
そこまで聞いて、うーん…と少し考えて、菜穂は口を開いた。
「涼くんと試合を行ったことにより悪化したのね?」
ふるふる、と桃井は頭を振る。
「ううん。誠凛と当たった時からもうすでに…それで青峰くん、黄瀬くんとやった時、実はかなり無茶をしていたんです。それで私は、監督に試合に出さないように訴えました。青峰くんは、ひどく荒れましたが、監督は半ば無理やりスタメンから外しました。けれどそれがさっきバレて…」
ブスとか、二度と顔見せんな的な事言われたのね?そう顰めっ面な菜穂が問いかければ、桃井にはうん、と頷いた。
「つーかさ、」
今まで黙って話を聞いていた火神は、ずっと思っていたある疑問を口にした。
「お前、黒子が好きなんじゃねーの?だってら青峰に嫌われようが、知ったこっちゃねーじゃん」
「あんた、バカ?」
「え、いでっ!」
地面に転がっていたボールを、菜穂は火神の頭に向かって投げる。ガツンといい音を立てて、火神の頭にヒットした。
「そうだけど、そういうことじゃないでしょ…!」
「え、は、え?」
女子二人に攻められて、火神は難解な乙女心に目を回した。
「テツくんの好きとは違うっていうか、危なっかしいっていうか、どうしてもほっとけないんだもん!」
『あーあ、泣かせた』
言い終わった途端、泣きはじめた桃井とそれを非難する部員たちを、菜穂は心の中で溜め息をこっそりとはいた。
それが、好きってことなんじゃないのかなぁ…?
何年経っても自分の気持ちに気づかない鈍感な幼馴染コンビとバ火神を見る。
「はぁ、デリカシー無さすぎです」
黒子にも女心を諭された!
ショックを受けて立ち尽くす火神をよそに、黒子は桃井の頭を撫でる。
「大丈夫ですよ、桃井さん。青峰くんはそれぐらいで嫌いになったりしません。桃井さんが心配してたってことも、ちゃんと伝わりますよ」
「たぶん、言い過ぎたって反省してるんじゃないかな?大輝、多分今頃探してるよ?さつきのこと」
帰りましょう。片手ずつ桃井に差し出した黒子と菜穂に、桃井は感極まって抱きついた。

「火神、あれだよ、あれ」
「うっせーな、わかってるよもう、です」

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