山姥切国広


五つの初期刀。審神者養成講座で五振りの刀については散々聞いたことはあるし、見習いとして他の本丸で過ごしていた時にはその刀たちと触れ合ってある程度の性格はわかっていた。それていざ選ぶ時に再び迷うハメになるのは、やはりご定番か。
巫女服のまま、刀の前を行ったり来たりしてうんうん唸る自分の主を、こんのすけはゆらゆらと尻尾を揺らしながら見つめる。まだあどけなさを残すその少女は、今年まだ18だという。艶やかな黒い髪は結ばれて、パッチリとした目、ぷっくりと膨らんだ桜色の唇。見目麗しいですなぁ、とこんのすけは目を細めた。

「うーん、決めた」

ぽつり、と呟いた彼女は朱色の紐が結ばれた刀を手に取る。ある意味扱いづらい刀剣男士を選んだことに、こんのすけは微かに驚く。ぶわり。彼女とこんのすけしかいない本丸に桜吹雪が舞う。顕現した青年は被っている布をグイッと引っ張って目の前にいる少女を睨んだ。

「山姥切国広だ。……何だその目は。写しだというのが気になると?」
「………え?」

ぽかんと目を瞬かせた彼女は山姥切の言葉をゆっくりと噛み砕いて飲み込んだ後に、クスクスと笑う。目の前の山姥切がムッとした。

「やはり気になるのか!」
「いやいやいや、違う違う」

未だにクスクスと笑いながら、彼女はあっけらかんと言い放つ。

「別に写しとか写しじゃないとかそういうのじゃないから」
「………?」
「んー、まぁ。なんというか…」
「なんだ」
「まぁぶっちゃけあなたの声が好きだから、かな」
「は」





「、ということなのですよ、主様」

こんのすけから渡してもらった資料をしばらく見つめていた蓬莱がコテン、頭を傾げてさっと隣を見た。

「まんばー」
「普段の理解力はどこに行った」

呆れながらも丁寧に説明する山姥切に、にへらと笑ってうんうんと蓬莱は頷いた。こんのすけは山姥切に目を向ける。ここの本丸にいる山姥切は他の本丸に見られるような山姥切ではない。自身を隠すように被っていた布はなく、顕現した当時に来ていた少しほつれていた制服は綺麗なものになっている。輝く金髪に深い海のようなブルー。なるほどこれは確かに王子様だ。ここの本丸に研修に来た見習いが興奮気味にまくし立てた山姥切についての感想を思い出したこんのすけは、たしたしと小さな前足で蓬莱の膝を叩く。

「それでは提出させていただきますよ」
「あ、はーい」

ボールペンをカチカチと鳴らしながら用紙の必要事項欄に書き込んだ蓬莱は、くるくるとそれを丸め、山姥切が渡してきた筒にそれを納めるとこんのすけに咥えさせる。

「じゃあ、頼んだよ」
「分かりました!必ずやお届けいたします!」

たったったっ、と本丸から出て行ったこんのすけを見送って、蓬莱と山姥切は執務室に戻ろうとしたのだが、ふと蓬莱が道端に咲く花を見つけてしゃがみ込んだ。

「主、何をやって─」
「はい、…相変わらず似合うねぇ」

頭に乗せられたシロツメクサの花冠を見て、蓬莱はクスクスと笑う。むっとしてそれを取った山姥切は、それを蓬莱の頭に乗せた。

「主の方が似合ってる」

山姥切の言葉に少し驚いた蓬莱は、そっぽを向いた彼の耳が少し赤くなっているのを見て再びクスクスと笑い始めた。


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初期刀は声で選びました( ˘ω˘ )