女房


「蓬莱よ、」
「なぁにおじいちゃん」
「私の女房になってみないか」
「だが断る」

茶を啜りながら残念だ、なんてほけほけ笑う三日月に、蓬莱ははぁ、と心の中でため息をついた。







熱しやすくて冷めやすい、それが蓬莱の性格だ。引っ越し早々三日月宗近と小狐丸を顕現させると、練度上げのために第三部隊に組み込んだ後に彼女はすべて終わった気分で次の刀の練刀にかかり始めた。それをまたいつも通りか、と受け入れたのは鶴丸で、そしてそれに対して少し不満げにしているのはもちろん、三日月宗近だ。現存の刀剣達の中では一応激レアに指定されている刀なのに、多くの審神者の多くは顕現した三日月にしばらくは見惚れるのに、彼女はというと顕現出来たことに満足し、これからよろしくねと二人の二の腕を叩き、獅子王と鳴狐に二人の世話を頼んでそそくさとその場から立ち去った。

「つれぬ」
「まぁそれが主だからな」

頭の後ろで両手を組んだ獅子王はあっけらかんと言い放つ。だがそれだけで納得しないのが三日月宗近。袖で隠された顔の半分は分からないが、目を見る限り、あれはかなり不機嫌なんだろう。

「絶対に振り向かせてやるぞ」

むっすりとしてそう言い放った三日月に、獅子王は心の中でどこの乙ゲーの俺様キャラだ、とツッコミを入れた。

それからの三日月は怒涛の攻撃を始めた。
服をが着れないと言えば三日月でさえ分からないのに私がわかるかとあしらわれ、朝に飾り紐持って結んでもらいたいと乞えば結びわからないといい獅子王に渡し、まぁここでは書ききれないことをしては振り向かせられることができずにいた。それは次第に行動から言葉になり、いつしか蓬莱を振り向かせる、という目的というよりは蓬莱に対しての三日月の一種の愛情表現となった。それもだんだんとこの本丸の日常となり、冒頭のようなことになったのだが。

「主、」

ふと奥の方から声がして二人して振り向くと、そこには山姥切が封筒を片手に立っていた。独特の模様の入った濃紺のそれは政府からの手紙で、内容を確認しようとして立ち上がった蓬莱は、何かクンッと引っ張られたような気がして振り返った。どこまでも器用な堀川がミシンをバリバリと言わせながら作った小花柄のチュニックを引っ張っているのは言わずもがな三日月で。全くこの寂しがり屋のおじいちゃんは、と蓬莱はわずかに苦笑して、そっと三日月の手の上に自身の手を重ねる。

「終わったら戻ってくるから、ね」

まるで諌めされた幼子のようにそろそろと離れた手を満足そうに見つめた後に、蓬莱はゆっくりと山姥切の方に歩き出した。袖で口元を隠した三日月は、山姥切と真剣な顔をして話をしている自分の主を見つめる。


誰か馬の骨も知らぬ奴の女房になるよりはここに閉じ込めておきたいものだ。


なんで物騒なことを考えながら。


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自分で書いといて意味がわからない