折り鶴
机や地面に散らばるのは色とりどりの正方形。折り紙だ。ワイワイと本を広げながらあーでもないこーでもないと騒ぐ短刀達の中に、ひときわ大きな影を見つけた私は、そっと部屋に踏み入った。
「なにしてるの、鶴丸」
「お?主か!見ろ、折り鶴だ!」
ずいっ、と目の前に差し出された真っ白い鶴に、思わずクスリと笑ってしまう。
「これ、鶴丸じゃない」
「主も思ったか!」
乱に引っ張られ、今剣に抱きつかれながら折り紙の本とにらめっこしながら何かを折っている彼女を眺めながら、真っ白い紙でできた真っ白い折り鶴を手持ち無沙汰にいじりながら、鶴丸国永はこの本丸に顕現した時のことを思い出した。
*
自分はこの本丸に14番目に来た刀だった。その当時の主はまだ刀剣についてはさほど詳しくなく、さらに言うならば彼女の友人の影響で血眼になって三日月宗近を捜索していた。顕現した時の彼女の残念そうな顔ときたら。
「よっ!鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」
ニヤリとそう告げれば、彼女はぽかんと俺を見上げた。お、驚いたか?なんて内心ワクワクしていたが、彼女はいえ、さほどは、と言いながら名乗り上げた。あれ、俺一応レア4なんて呼ばれてるやつなんだが、微妙な顔をする俺に全く気付かず、彼女は本丸を案内したしますね、と言いながら部屋を出た。太刀である上に白いのが幸いしたのか、彼女には大きな戦力として認められ、その上近侍に命じられた。俺が来るまで近侍を任されていた山姥切国広には睨まれたが。
そんなある日、彼女はまだまだ広々としている大広間に全ての刀剣を呼び集めて声高らかに宣言した。
「私、しばらく旅に出るわ」
こりゃ驚きだ。この本丸にいる、俺を含めた21振りの刀剣達の間抜けヅラと言ったら。言うだけ言って、彼女は小さな荷物と共にこの本丸から去っていった。これは噂に聞く放置本丸というやつか?短刀達の泣き声をBGMにしながら俺は考える。実はそんなことは全くなかったのだけど。彼女がこの本丸を開けたのは実に半年だが、その間にも彼女は度々帰ってきてはその日のノルマをこなしたり、俺たちに構ってくれたりしていた。後から聞いてわかった話だが、彼女は現世に帰って学校に通っていたそう。それも卒業する前に学校に飽きてしまったからこちらに帰ってきただけだとか。その間にも変わらず俺は近侍のままで、最後に練刀されていた長谷部は見るもままならなかった自分の主に思いを馳せては主人の部屋を見学し、彼女に喜んでもらえるように勉強していた。
そして半年過ぎた春、この本丸に戻ってきた彼女は俺を見るや否やなんとも言えない顔をした。
「鶴丸ってレア刀だったのね」
「こりゃ驚きだ、今更気づいたのか」
「残念ながら」
そういって、彼女は本棚から本を抜き出しては段ボールにつめる。帰ってきて早々、実は引っ越しというものをするらしい。ここの本丸からもっといい本丸に移るとかなんとか。移ってくれた審神者には三日月宗近と小狐丸が礼として与えられるとかなんとか。おそらく彼女はその待ち望んでいた三日月宗近と小狐丸のために引っ越すのであろう。まぁそれに対して少しカチンとしたが、五虎退の虎が爪とぎでボロボロになった畳や通り道のために穴を開けた襖がある本丸よりは新品のピカピカの本丸で心地よく過ごしたいとは思った。
引っ越ししてからは彼女もこの本丸にかかりっきりになって、堀川のために和泉守兼定を練刀したり、粟田口達のために一期一振を練刀してみたりと大変精力的になったのだが。
*
「姉さん」
「お、どうした弟よ」
「越前から生き残って帰ってきた最愛の弟に労いの言葉もねぇのかよ!」
「んー、生きててよかったねぇ。昼は豆腐ハンバーグだぞ」
「ひでぇ、けど好きだわ」
なんでこんな人が俺の姉なんだろう、そうブツブツつぶやきながら部屋を去っていく主の弟を見送って、俺は主を見た。明らかにホッとしている。ツンデレめ。
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折り鶴どこいった