芸の道


ポロン、ポロンとピアノの音が本丸に響く。純和風にまとめられたかと思われるこの本丸にもちゃんとフローリングの部屋がいくつかあって、カスタマイズができる。うちの本丸ではそのうちの一つはピアノが置かれた部屋であった。しとしとと降る雨に便乗して誰もいないピアノルームで雨だれを弾いてみたのだが、最後の音が消える時にはパチパチと誰かの拍手の音が聞こえた。

「…歌仙」
「雅だね、ショパンの雨だれかな」
「そうだね、よくわかったね」

そう言うと、歌仙は嬉しそうに笑う。文系男子の彼はとにかく雅で風流なことが好きらしく、どうやら彼の中で雅認定されているピアノの音につられてやってきたらしい。指ならしにポロン、ポロンと弾いていると、歌仙が隣に椅子を持ってやってきた。

「主は元はピアニストかい?」
「違うけど、なんで?」
「とても上手だったからさ」
「そっか、ありがとう」

趣味でやってるのよ。プロはもっと上手だし。そんなことを言えば、いや、主人も負けていないさ、と歌仙は言う。その言葉に少し嬉しくなりながら、じゃあ何かリクエストしてよと言えば、うーんと少し考え込んだ歌仙は席を立って楽譜の置いてある本棚へ向かった。

「これ弾いてよ」

そう言って渡されのはラプソディー・イン・ブルーで、そう言えばいまうちの本丸でのだめブームが起きてることを思い出した。

「よし、弾いて差し上げましょう」

そう得意げに言って、私は鍵盤に指を滑らせた。それからというものの、雨の日はピアノ室でミニコンサートが開かれることになり、それを見たり聞いたりした刀剣男士達が競ってピアノを習い始めたのは、また少し後の話。