着物


白い小袖に緋袴、伸ばし続けている髪の毛は後ろ髪に結い、垂らした髪を紙や布で円筒に包んで根元の方を水引で留める。 今まで誰にも触れさせていなかった神酒をとくりとくりと小さなお椀に注いで、神棚に置いてから、目の前の刀を一瞥して後ろに控えている太郎太刀に目配せした。小さく頷いた太郎太刀が部屋の襖を音もなく閉めたのを確認して、私はゆっくりと目を閉じる。


「掛巻くも畏き親神天理王命しばし此の神籬に来格座し坐せと恐みも白す…」


こんな厳かな雰囲気だけど、自分は少し、いやだいぶにやけているとは思う。なんせ待ちに待った"あの刀"なのだから。ぶわり、と辺り一面に桜の花が咲き誇り、ひらひらと花びらが舞う。薄浅葱色の髪の毛がキラキラと光り、蜂蜜色をした目がゆっくりと開かれる。少し派手に思える服のマントを少しはためかせて、"彼"は礼を取る。


「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀。藤四郎は私の弟達ですな」


にこりと微笑まれ、思わず頬を染める。本当に弟が大好きだなぁ、そんなことを考えながら、私は畳に三つ指をついて最敬礼を行う。


「こちらの本丸で審神者をしております、松が位、蓬莱と申します。以後よろしくお願いします、一期一振」
「…難波性ですか。香りの良い花ですね」
「さすがです」


顔を見合わせてにこりと微笑み合う。立ち上がった私はどうぞ、と一期一振を外へ誘う。うしろからついてくる一期一振に見えないようにニヤニヤしながら、私は襖を開けて本丸中に響き渡るように思いっきり叫んだ。


「いち兄が来たよぉーーーーー!」


びくりと肩を跳ねさせた一期一振が不思議そうな顔をこちらに向けているが、それもすぐになくなる。ドタドタと複数の騒がしい足音が響き、ひょっこりと角から粟田口の短刀達が顔をのぞかせる。


「ほんとにいち兄?」


以前にあげたクチバシクリップで髪をまとめていた乱の言葉にうんと頷くと、ぱぁと顔を輝かせて一期一振に飛びつく。


「みんな、本丸の案内は任せますよ」
「はーい!」


ぐいぐいと一期一振の腕や服を引っ張る短刀達に微笑んで、私は先に祭壇のある離れを出た。


「その服、久しぶりに見た」
「…あ、まんばちゃん」


布切れをぐい、と引っ張ったまんばは私に合わせて歩き出す。ピチチ、と雀が鳴いて私の肩に止まる。口には小さなシロツメクサが咥えられていた。


「懐かしいなぁ」
「なんだ」
「まんばちゃんに花冠作ったこと」


似合っていたなぁ、とまんばの顔を覗き込めば恥ずかしそうに布で顔を隠した。また作ってあげようか?とからかってあげれば、まんばは少し怒ったようにこちらを見た。


「おやつのドーナツ、譲ってあげないぞ」
「え、うそうそごめん待って嘘だから!」