薬研藤四郎


「よお大将。俺っち、薬研藤四郎だ。兄弟ともども、よろしく頼むぜ」

そう言って顕現した薬研は、目の前で不思議そうな顔をする主とその後ろに控える山姥切、そしてシンと静かな本丸を見て状況を察した。

「俺っち以外にも兄弟がいるんだ」
「兄弟が、ですか?」
「そ。粟田口の刀派でな」
「……そうなんですか…では改めまして。梅が位、蓬莱と申します。以後よろしくお願いします」
「雅なことはよくわからんが、戦場じゃ頼りにしてくれていいぜ。ま、仲良くやろうや大将」



内番も出陣も遠征もない日。暇で暇で仕方がなく、何か読もうかと書庫に向かう薬研の耳に、ゲホッ、ゲホッと誰かの咳のする声が聞こえた。行き先を変更して声の主を探せば、濡れ縁の柱に手をついて激しく咳き込む蓬莱の姿が。

「大将!!」
「あ、薬研…ど、ゲホッ」
「喋るなよ、」

背中をさすりながらそばに置いてあったペットボトルを手渡すと、おとなしく受け取った蓬莱はそれを一口飲み込んだ後にほぉ、と長く息をついた。

「はぁー、危なかったー」
「風邪か?」
「いーや、さっき食べた饅頭が喉に詰まった」
「おいおい大将、勘弁してくれよ」

呆れたように言うと、えへへー、なんで笑いながら蓬莱は何歩か歩いて振り返った。

「やーげん」
「なんだ?大将」

ここからチラリと見える道場の屋根を指差しながら蓬莱はにっこりと笑った。

「久々のお手合わせしません?」



柄まで通ったぞ!そう叫び、ふざけながら突っ込んでくる蓬莱を交わして後ろから斬りこむ。まるで薬研のその動作がわかっていたかのように、蓬莱は自分の木刀を地面に突き刺し、それを支柱として空中に飛び上がる。着地後に地面に埋まってした木刀を後ろ向きに振り上げて攻撃をするが、薬研はそれをすっと避けた。そしてうん、と近づき、唖然としている蓬莱の喉元に短刀の長さに整えられた木刀を据えた。

「降参するか?大将」

そう聞けば、目の前の彼女はニヤリと口角を上げた。チャリ、と真っ黒いそれにくくりつけられたキーホルダーが音を立てる。

「薬研こそ、降参しないの?」

額に突きつけられた冷たい拳銃に、やれやれ、と薬研は木刀を捨てて両手を上げる。蓬莱は手に持っていた銃をくるくると回して、パーカーの間からチラチラと見えるホルダーにそれを戻した。

「あまり慣れんなよ、大将」



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慣れるとは戦いにです