冷たい指先が密めく午前二時半

番外編を撮りたい、と言い出した監督の指示により、スペシャルを撮ることになった。新たなキャストを入れる事らしいから、顔合わせすっぞ、と言われて会議室に来れば、今回のドラマの相棒がまさに心ここに在らずといった感じで座っていた。マネージャーに挨拶をすると、朝からこんなんなんよ、と少し心配そうにしていた。
「よ、涼太」
「………」
「涼太?」
「……あ、」
「ん?」
「……はぁ、」
「おい涼太」
「……あ"ぁー、」
「涼太っ!」
「っ!……斗真っち。いつから居たのさ」
「いや、最初からいたよ馬鹿。それよりその〜っち」
「あ、あぁ、ごめん、中高の時の癖で」
「あぁ、なるほど、そういうのなってったっけ…」
「ん……?なんだっけ」
「口癖だろ」
「それだ!あ、旬。はよ」
「ん、はよ。涼太なんか元気ない?」
「いや、バリバリ元気!」
あははーなんて笑うっているが、あれは完璧な空笑いだったりする。
「おまえ、なんかあったろ」
旬も何かに気付いたらしい、眉を顰めて涼太に問いかけると、涼太は力なく笑った。
「……打ち合わせ終わったら話すから」
「あ、話すんだ」
「斗真と旬は口堅そうだから」

***

「んで?」
今日は車で来たらしい涼太は、ちびちびと烏龍茶を飲んでいた。ぐぃ、とビールを一口あおった旬が涼太に聞く。俺はと言うと、魚の骨と格闘しつつ、耳を傾けていた。
「いや、なんてゆーかさ、」
食欲もないのか、割り箸でひたすら唐揚げを突ついていた涼太は、はぁーっ、と深いため息をついた。
「俺さ、結婚した」
「「…………はぁっ!?」」
ぐしゃ、と手元の魚が無様な姿となった。それに気を取られつつも、涼太を問い詰める。旬が。
「5w1h!what! when! where! why! who! how! 」
「無駄にいい発音だなお前」
俺らのやりとりを見て、涼太はふっ、と小さく笑みをこぼした。
「先週の木曜日の夜に、実家の俺の部屋で今の彼女にプロポーズした。普通に俺が幸せにするから結婚してくれって。籍入れに行ったのは金曜日。………どうして、か」
きちんと4w1hで返してくれた涼太に、ぽかんとして、二人で顔を合わせた。
「どうしてなんだ?」
言いづらいのか、俺が恐る恐る問いかけると、涼太はガン、と机に突っ伏した。突然の奇行にびびってると、今にも消えそうな声で涼太は言った。
「……できた」
「「…………は?今なんて?」」
「出来てた、三ヶ月…」
「「…………はぁっ!?」」
「うわー、それはお前ないわー…結婚して正解だよ、それ」
「うん、俺もそう思う」
あ、この鮎の塩焼きうめぇ、なんて思う。涼太は今度はレバニラのレバーをつついていた。食べ物を粗末にすんなよ。
「それいつの話だよ、」
「だから、この前の木曜日だって」
「…あぁ、やけに早く帰った日か?」
「そう」
「決断早くね?ってか堕してもらえばよかったじゃん」
「無理」
「これまた即答」
「これ言ってなかったけどさ、今の彼女、じゃなかった嫁はさ、元々俺の弟の彼女だったんだよ」
「何その泥沼」
うげぇ、という顔をしながら旬はまた酒を一口飲んだ。
「ってか、弟がくれた?」
「ん?」
「俺が惚れていたことに気づいていたらしい」
「なんか、お前の弟すげーな」
「…んでさ、それで出来ちゃったから堕してもらうね、なんて言ったらさ、俺弟に殺される。あと、なんだかんだ言って、俺はあいつが大切だし。本気で好きだし」
「おーおー、泣ける話だこと」
「あいてっ、」
枝豆の鞘を、涼太のデコに向けて投げた旬は、追加注文でさらに鮎の塩焼きを注文した。あれ本当にうまいよな、といいながら。
「で、その彼女どんな人なの?」
メニューを見る限り、食べたいと思った物がなくなった俺は全力で涼太に質問することに決めた。そしてどうやら初っ端から地雷を踏んだらしい。ピシッと固まった涼太はそっぽを向いて、ぽそっとつぶやいた。
「………」
「は?なんて?」
「だから、だ、い」
「なに?聞こえない」
「大学生!」
「おぉ…ちなみに?」
「10歳差」
「最近お流行りの年の差婚ですね」
「ってか、おまえ、こんなとこで、油売ってて、いーのかよ」
さっきまで涼太が突ついていた唐揚げを頬張る旬が横から割り込んできた。
「食べ終えてから話せよ」
「あ、いいよ、今日サークルの子達と夜食べるって連絡来てたから」
「ふぅん」

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こんなとこだけど終わりです。
文中に出てくる斗真と旬は生田斗真と小栗旬ですが、ご本人に一切関係はございません。なんでこの二人かは、何と無く?管理人がパッと思い浮かんだ俳優さんが彼らだったからです。嵐出すって手もあったけどね、何と無く躊躇いました。