火曜日のラプンツェル
赤司の祖父祖母捏造。
お墓事情捏造。
赤司家本邸捏造。
赤司母(名前とバスケ云々の話は本当※藤巻先生情報)捏造。
以上のことが許せる方のみ、どうぞ。







IHが明けた、火曜日。
僕はお盆を実家ではなく、お祖父様とお祖母様の住んでいる京都にある本邸で過ごそうと思い、表彰式が終わった後すぐに京都に戻ってきていた。
京都は暑い。
その一言に尽きる。
文明が進んでいない、平安時代や江戸時代は、涼しかったのだろうか。もしこれと同様に暑かったら、避暑地を求めないで京都にどどまり続ける貴族や天皇は馬鹿だな、なんて考える。

いくら僕でも、こんな暑い中歩くのは真っ平御免だ。バスや電車に乗って、ぎゅうぎゅうに潰されるのは嫌だ。つまり、広々としたところで涼しく居たいのだ。
赤司ずりーよ、なんて不満をこぼしながら地下鉄に消えていく小太郎達を見送り、迎えに来たクーラーの効いた車へ乗り込んだ。
流れて行く景色を眺め、暑そうに足をだるぅくしながら歩く人たちを見て、心の中でざまぁとつぶやく。そして京都の大丸を過ぎたあたりに、見知った人物が一人。
流石に彼女にざまぁとは言えなく、むしろ少しかわいそうだと思い、運転手を車を歩道に寄せてもらう。多少の熱気が入り込むのは目をつむろう。パワーウィンドウを下ろしてもらう。
「黒子」
そう声を掛けると、白いワンピースを着た彼女がふわりと広がった裾をひらひらと揺らしながら辺りを見回す。
「歩道じゃない、車道だ」
そう声を掛けると、黒子は顔をこちらに向けた。僕を見つけたらしく、にへら、と笑った。
「おや、赤司大佐ではないか。久しいな」
そのネタをまた引きずっているらしい。思い出しただけでも笑える。
混み上がる笑いを懸命にせき止めて、できるだけポーカーフェイスを保つ。
「久しいな。ところで、乗って行くかい?家まで送るよ」
そう言うと、彼女は顔をぱぁっと輝かせて、こくり、と頷いた。
「助かる!あ、ウィンドウ閉じていいよ。暑いでしょ?五分くらいしたら戻ってくるからさ、そこでちょっと待っててくれる?」
「あぁ、待ってるから、あまり急ぐな」
「了解」
彼女はそう笑いながら言うと、後ろにあるコーヒーショップへ駆け込んだ。
ウィンドウを閉じて、待つことぴったり五分。コンコンと窓ガラスをノックされて、ドアを開ける。
もわん、と入ってくる熱気に眉を顰めながら、彼女を迎え入れる。手には有名な緑色の女の人の頭部のロゴが印刷されている紙袋。
「独断でごめんね、赤司くんはアイスコーヒーでよかった?」
「構わないよ、もらおうか」
お砂糖とミルクは…まぁ、いらないよね。なんて言いながら、褐色の半透明の液体が入った緑色のロゴが入ったプラスチックカップに緑色のストローを刺して渡してくれた。それを受け取って一口。ちょうど喉が渇いていて、ナイスタイミングだな、なんて思う。
「運転手さん、運転手さん」
「はい、なんでしょうか黒子様」
「お仕事中の人にものを渡すのはどうかと思うのですが、これをどうぞ。持って行くとアイスコーヒーと交換できます」
「いえ、私がそのようなものをもらうわけには…」
「乗せてもらったお礼です!お駄賃だと思って…」
「ですが…」
そう言いながらこちらを見る運転手。
もう一口アイスコーヒーを口に含み、独特の苦味と酸味を堪能する。
「貰えばいい。折角の好意を無下にはできんだろう」
「征十郎様がそう仰るのであれば…ありがたく頂戴いたしますね、黒子様」
「はい!」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑う彼女。
悪くはない。
そしてふと、思いついた。
「黒子。暇なら僕の家に、と言ってもお祖父様の家にだけど、来るかい?」
「…暇だけどさ、いやいやIHで疲れて…あ、出てないんだっけ……あ、そうだ。優勝おめでとう」
「あぁ、ありがとう」
優勝することは当たり前だ。おめでとう、なんて言われても、それが僕にとっては普通だ。けど、黒子に言われると、違ってくる気がする。現に今、僕は少し嬉しかった……なぜ僕が試合に出てないを知っている事は置いといて。
車は鴨川に沿って走る。実は鴨川は賀茂川と高野川という二つの川が合わさってできている川なのだ。
閑話休題。
やがて車が賀茂川か高野川に分かれるところまで進む。
ついさっき知ったのだが、彼女はこことは真逆に位置する西大路沿いにある若一神社の近くに住んでいるらしい。
僕のお祖父様の家も高野川に沿って進んだ先の鞍馬に本邸を構えているのだが。
涼しいなぁ、なんて笑っている彼女に、返答がなかった質問をもう一回してみる。これで来ないとか言われてしまったら引き返さなくてはならないのだが。
「うちに来るかい?」
「うーん…ここまで来ちゃったわけだし、行かせて頂こうかな」
紺に水玉の、最近流行っているらしいがま口のポシェットにずっとてに持っていた水色の財布をしまって、ドット柄の水色のリボンが巻かれた麦わら帽子をとった彼女はまたにへらと笑った。
お父さんとお母さんに連絡しなくちゃね、なんて言ってスマホを取り出した黒子を見ながら、僕はまたズズッと一口、アイスコーヒーをストローから吸った。

xxxxxx

「ただいま帰りました」
ガラ、と家のドアを開けてもらうと、お祖母様は玄関で帰りを待っていてくれた。
「おかえりなさい、征十郎さん。こちらが言っていた千夏さんかい?こんにちは」
「はい!お邪魔します。赤司くんのお祖母様」
「ところで、お祖父様はどちらに」
二人で出迎えてあげる、なんて言ってくれたのに、お祖父様がいないことに疑問を持つ。
「あの人ったら、孫の顔が見れる!ってはしゃいじゃってねぇ、ぎっくり腰になったんだよ。笑っちゃうわねぇ」
ほほ、と笑うお祖母様を見て、一息つく。癒しだ。
「お盆は、詩織ちゃんのところへ行くのかい?」
「ええ、そのつもりです。確か、延暦の方にありましたよね」
詩織とは、僕の母親のことだ。昔から体が弱く、早くに、僕が小学生の頃に病気で他界してしまった。
とても優しくて、大好きな母だった。バスケを教えてくれたのも母だった。父さんと結婚しても、お祖母様とはよくテレビで見た嫁姑問題にはならず、むしろ可愛がられていたらしい。そして、母さんの形式上の墓は赤司一族の墓がある延暦の方にある。本当の墓は、母さんたっての希望で、海の見えるところに墓が立っている。その事については僕とお祖父様とお祖母様しか知らないが。
今回のは、延暦にあるやつだろう。
「そうだねぇ、私達も一緒に行くことにするわ」
そう話しながら家の中を移動してながら、とことこと後ろから黒子が興味津々でついてくるのを見る。
「立派な日本庭園ですね」
「でしょう?」
「はい」
嬉しそうに笑う黒子をみて、ほほ、とお祖母様もわらう。
洋風の実家とは違い、本邸はこれでもか、というぐらい純和風だ。もちろん、僕は実家より本邸の方を気に入ってるのだが、細かいことについては、また別の機会に。
「あ、そうだ。お父さんがね、迷惑じゃなければ晩御飯はうちで食べませんか?っていってるんだけど、赤司くん、いい?」
いいものが見れて、機嫌がいいのだろうか、ふんふんと鼻歌を歌っている黒子に笑みがこぼれる。お祖母様を見れば、いいわよ、という風に頷いた。決まりだ。
「喜んで、そうさせていただくよ」
「よかった〜」
くるり、くるりと、嬉しそうに黒子は回った。ふわふわとワンピースの裾が、広がった。

xxxxxx

「ただいまー!」
「お邪魔します」
ドアを開けて家に入った黒子について行く。
「やけに静かだな」
「うーん、多分離れの方にいるんじゃないかなぁ?あ、どうぞ入って入って」
そう言って彼女に通されたのは二階にある彼女の私室だった。
「お前の部屋に邪魔していいのか?」
「いいよいいよ、赤司くんなら大丈夫って信じてるから」
この返答に、思わず苦笑する。
「じゃあお邪魔するよ」
「どうぞどうぞ」
水色と白で飾られたシンプルな部屋だった。とこが女の子らしさがある部屋は、そのまま彼女のイメージにピッタリ合う。棚に立てられたたくさんの写真立ての中には、伏せられているものが幾つかあるが、大体は家族とだったり、あるいは友達と撮ったものだったりと、彼女の人受けのよさ、または社交力の高さを表しているように見える。
着替える、と言ってウォークインクローゼットに引っ込んだ彼女を待つこと10分。
さっきの白いワンピースではなく、オレンジ色のノースリーブのシャツと白いショートパンツに替えてきた彼女は、カーベラの造花がついたヘアゴムを腕に引っ掛けながら、笑って僕に近づいてきた。
「それじゃあ、行こっか。赤司くん」
さらけ出された健康的な白い脚と腕をみて、少し目眩がしたので、気を紛らわすためにも、小さな庭に目を向ける。
季節感を大事にするのであろう。花壇に咲くひまわり達と緑のカーテンとして植えてある朝顔を見て、頬が緩む。
「綺麗でしょ?赤司くんの家の庭には敵わないけど」
ポニーテールに纏めた髪を、右に、左に揺らしながら聞いてくる彼女を見て、手を伸ばす。
「花、ずれてるよ」
「んんっ、ありがとう」
渡り廊下を渡って、こじんまりとした離れに到着する。この家建てたの、お父さんとお母さんの趣味なんだよね〜と言いながら、ススス、と彼女は襖を開けた。
ぐるん、と僕の方を振り返り、にっこり。
「よかったね。今夜は赤司くんの好きな湯豆腐だよ」
「それは、嬉しいね」
「でしょ?」
そう言いながら、彼女は僕を部屋の中まで引っ張って行った。


prev next

bkm