春歌はピアノの練習をするためにレコーディングルームを借りようとして、実技棟に足を運んでいた。事前に申請して、もらった部屋の鍵を持って、廊下を歩くと、よく聞いている声がした。とても澄んだ、きれいな声。春歌は思わず足を止めた。

「緩やか〜な坂を下り〜、見〜えるのは夢色〜の世界〜、私を〜、いざなって〜、んー…と、無限の〜…違う」
「作詞って、難しいね…私のこの曲も結構時間かかっちゃったんだよねぇ…」
「うーん…やっぱしぃは凄いなぁ…ねぇしいちゃん。これはどういう時に書いた曲?」
「そうだなぁ…入学決まって、それで…嬉しくて、でもやっていけるか不安で…」
「それだ!じゃあ、うーん…新しい場所で、上手くやっていけるかな?部屋を片付けて、散歩に出かけよう、遠い空の向こう、君の声が聞こえる。元気が湧くよね、今日も明日も頑張ろ」
「わぁっ!凄い凄い!えっと、じゃあこれで編曲するね…よかった…さっきの会話録音してて。これで仕上げられるね茅ちゃん」
「いやいや、それを言うならこんなに素敵な楽曲を提供してくれたしぃちゃんに感謝、だよ」

聖川経由に聞いたのだが、Sクラスの提出期限はAクラスより少し後らしい。
くすくすと笑いながら、楽譜に音符や詩を書いていく二人見て、春歌は羨ましいな、と思った。一体何が羨ましいのか、自分でもよくわからなかったが。

xxxxxx

「春歌ー!茅ー!成績表見た?」

朝食を済ませた春歌と憂は、友千香に引っ張られて、広間まで連れて行かれた。

「成績表って?」
「茅、知らないの?この前のレコーディングテストの結果だよ。張り出されるの」
「へぇ、そうなんだ…」

そう言いながら広間に踏み込んだ途端に、周りがざわついた。

「茅ちゃん!私達やったよ!」
「え?」

嬉々としながら抱きついてきた椎名にキョトンとしていたら、成績を見てきた友千香が、慌てて帰ってきた。

「ちょっと!茅!えっと?椎名さん?あんた達すごいじゃない!」
「だからなにが?」
「作曲コースとアイドルコースの一位だよ!」
「うそぉ…!」
「私が嘘ついてどうすんのさ…」
「あいてっ」

友千香にデコピンされたおでこをさすりながら掲示板へ向かう途中、いろんな生徒におめでとうと言われ、少し恥ずかしい気持ちになった。

「うわ…本当だ…」

掲示板の一番上にデカデカと書かれた名前と、点数。
1位 茅野憂 95点
嬉しくなって、思わず写真をとって、憂は赤司達に一斉送信した。

「七海ー!憂ー!やったね!」
「一十木くん!」
「音也…うん、やったね」
「憂のおかげだよー!じゃなきゃこんないい点数取れなかったよー」

ニコニコしながら憂と春歌とハイタッチする音也に、友千香は溜息をついた。

「音也はしゃぎすぎ」

「授業の前に、アイドルコースの子達は事務室に寄って、バラエティ実習の資料、受け取ってね〜」

そう林檎に言われて、憂達は春歌と別れ、事務室へ向かった。
ピロリン、と携帯が鳴って、慌てて確認すると、メールが2通。
赤司と黄瀬からだった。
どちらも一位おめでとう、頑張れ!応援しているよ、という旨で、思わず頬が緩む。

「なになにー?恋愛絶対禁止令蔓延る早乙女学園で彼氏からのメールかなぁ?コノコノー」
「えぇっ!?憂彼氏いるの?」
「しっ!音也声抑えて!」
「あ…ごめん」

分厚いファイルを幾つも持って、教室へ戻る。

「中学のクラスメイトだよ。黄瀬涼太。音也知ってるでしょ?」
「えぇっ!?憂黄瀬涼太とクラスメイトだったの!?」
「だから音也声抑えて」

黄瀬涼太、という響きに釣られて、何人かが見てきたが、三人ではは、とごまかし笑いをした。

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