冬の東京に、珍しく大雪が降っていた。
朝、ご飯を食べながらおはやっほーニュースでHAYATO、もといトキヤを見ていた憂は、それを見て思わず噴き出しそうになった。
(やばい!知ってても慣れない!)
込み上げる笑いを抑え込み、ブルーベリーソースのかかったヨーグルトに手を延ばした。

「憂、そろそろいかないと間に合わないよ」
「ん、そう?」

時計をみると、ちょうど七時を指していた。たしかにこのままのんびりとしていたら間に合わない。雪も降っているし、交通機関は絶対遅延している。そう思って、憂は予定より一時間早く家を出ることにした。

「受験票持った?」

玄関まで、母と起きたばっかりの妹がついてきた。

「もちろん」
「お姉、絶対受かってよね」
「はいはい」

じゃあ、行ってきます。そう言って家を出た憂は、玄関先に佇む人影を見た。

「赤司、」
「おはよう、憂」
「うん、おはよう。寒いでしょ」
「いや、そんなことはないよ。それより、試験会場についたら、人を探してくれないかな」

突然のお願いに、目をパチクリさせていると赤司は笑った。

「そんな難しいことじゃないさ。神宮寺と聖川という人を探して欲しいんだ」

そう言って、赤司は紺色のコートからAのイニシャルの蝋の封がしてある封筒を二通取り出した。

「渡して欲しいんだ」
「そう、人多いよ」
「知ってるよ、倍率200だろ。憂は受かるよ。僕が保証する」
「赤司がそう言うなら、受かりそうな気がしてきた」

赤司から封筒を受け取って、かばんに入れた。

「それと、緑間からだ。どうせおは朝じゃなくておはやっほーの方を見るだろうからと」

そう言って、赤司は手編みの臙脂色のマフラーを憂の首に巻いた。

「緑間の手作りだ」
「うそ、緑間が!?」
「あぁ、じゃあ俺はこれで」

本当は車を出して送って行きたかったが、学校があるだろう?そう言って、赤司は帰った。そんな赤司の後ろ姿を見て、憂は歩き出した。

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「え、と…神宮寺くん、だよね?」

試験教室に、赤司の言っていたオレンジ髪のロン毛、フェロモン垂れ流しという特徴の人がいた。
呼ばれた人は、こちらを向いて、ニコリと笑った。

「やぁ、子羊ちゃん。俺を知っているのかい?光栄だねぇ」

憂の手を取り、ちゅっとキスをした。

「……おぉぅ…あ、赤司からね、」
「うん?エンペラーの知り合いかい?」
「え、エンペラー…ぷっ…」

逸品すぎる神宮寺のネームセンスに笑うと、神宮寺も嬉しそうに笑った。

「子羊ちゃんは笑顔が似合うね、エンペラーがどうかしたのかい?」
「〜っ、もう、エンペラーはやめて!手紙を預かったの!」

はい、と手渡しすると、神宮寺は裏表と封筒を見て、懐にしまった。

「子羊ちゃんは、早乙女学園を受けにきたのかい?」
「あ、はい。アイドルコースです」
「じゃあ俺と一緒だね」
「そうなんですか…」

今度はぐい、と腰に手を回された。

「あの、神宮寺くん」
「レンで構わないよ、子羊ちゃん」
「あの、レンさん離してください」
「子羊ちゃんは恥ずかしがり屋なんだねぇ」
「わ、私用事があるので!!それでは!」

慌てて走り去った憂の後ろ姿を見て、神宮寺はクスリと笑った。

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「聖川真人さん、ですよね」
「いかにも、俺が聖川真人だ」

聖川はちょうど隣の教室でテストを受けていた。広い校舎内を歩かずに済んだことに、憂はホッとして、カバンに手を突っ込んだ。

「あの、これ赤司から預かったんです」
「む、赤司か?その、おまえは赤司の…こ、恋人か?」

頬を赤らめてじどろもどろになりながら聞いてくる聖川に、憂はウブだなぁ、なんて思いながらいいえ、と頭を振った。

「中学の同級生です。部員と、マネージャーです」
「バスケ部か?」
「えぇ、よくご存知で」

パーティでよく話すんだ。と話す聖川に、憂はふんふんと相槌を打ったあとに時計を見て動きを止めた。

「?どうかしたのか?」
「実技、始まっちゃう!じゃあね!聖川くん!」

慌てて走り出した憂に、聖川は声をかけた。

「名前を教えてくれないか?」
「茅野憂!」

そう名前を叫んで慌てて教室を飛びたした憂は、誰かにぶつかった。

「わっ!ごめんなさい!」
「いえ、こちらこそ…!」

可愛い子だなぁ、アイドルコースかな?とはちみつ色の目を思い出しながら、憂は実技を受けた。

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〜一ヶ月後〜

「茅ちゃーーーーん!」
「さつき」
「茅ちゃん卒業おめでとー!」
「さつきもね」

ぎゅっと抱きついてきたさつきの豊満な胸が腕に当たり、憂は少し悲しい気持ちになった。

「ねぇねぇ茅ちゃんは学校どこー?あ、もしかして桐皇で私と一緒にマネージャーやるの?きゃっ、嬉しい!」
「ちがうよ」
「えーざんねーん!茅ちゃん一体どこの学校なのよー?調べても出なかったしー!」

ぷんぷんと怒るさつきをみて、憂はこの子がアイドルになったら売れるんだろうなぁ、なんて思う。

「じゃあ、卒業祝いに教えてあげるよ」
「本当っ!?」
「私が嘘をつくとでも?」
「まさか」

さぁさぁ教えて!とメモ取り出してスタンバイするさつきに苦笑いしながら、憂は口を開いた。

「早乙女学園だよ」
「ヘぇ〜そうなんだぁ…茅ちゃんは早乙女学園…早乙女学園!?

級友や後輩と話していた人達がこちらを向いた気がした。

「早乙女学園って、倍率200倍でしょ!?すごーい!で、で?何コース?」
「言わなきゃ?」
「だーめ」

話すまで帰さないんだからねっ、とガシリと憂の腕をつかんださつきを見て、憂はため息をついた。

「一回しか言わないよ?」
「うん!」
「アイドルコースです」
「へぇ、早乙女学園のアイドルコース…アイドルコース!?

本格的に校庭がざわざわしてきた。
所々から「早乙女学園のアイドルコース!?すごーい!」「今のうちにサインが貰っといた方がいいよな」「やっぱ茅野頭いいよな」なんて会話が聞こえてくる。勘弁してくれ、憂は深いため息をついた。

「憂」
「あ、赤司」
「言った通り、だろ」
「ほんと、キャプテンには敵いませんわ」

応援してるよ、そう言ってニコリと笑った赤司に、憂は両手をあげて、降参のポーズをとった。

Q.まぁ様の後にぶつかった子は一体全体誰でしょうか?
A.それは後ほどのお楽しみという事で。見当はついてると思うよ。

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