「久しぶりだね、赤司」
「あぁ、少し見ないうちに綺麗になったな。憂は」
「褒めても何も出てこないよ。それにまだ卒業してから2カ月しか経ってない」
「はは、そうだな」

時期はそろそろ梅雨へと移り変わろうとしていた。湿気がひどく、ただでさえうねっている友千香の髪がさらにうねっていて、林檎ちゃんも髪がまとまらない、と龍也先生に愚痴をこぼしてるそんなある日、憂と赤司は早乙女学園から車で高速で一時間ほどかかる所に来ていた。つくば市だ。外はあいにくの曇りで、どこか憂鬱な気分にさせられた。

「ところで、憂は人工知能、またはA.I.と呼ばれるものを知っているか?」
「あぁ、あいぽんのシリさんみたいなもの?」
「まぁ、そのようなものと考えてもらって構わない。で、だ」

赤司は車の座席に一度座り直して、スマホを差し出した。

「如月愛音、というアイドルを知っているか?」
「あぁ、歌が上手だった。私一時期ファンだったんだ。でも、すぐ消えた。確か、撮影中に行方不明になったとか」
「上出来だ」

そういってスマホを赤司から受け取った憂は画面を覗き込んで、顔をしかめた。

「誰これ。如月愛音に似ているけど…双子?」
「如月愛音に似せたロボットだ。今月からwebのみでの楽曲配信でデビューすることになった」
「ふぅん…」
「シャイニング事務所で、だ」
「まじで?」
「僕が嘘をついてどうする」

スマホを赤司に返すと同時に、車のドアが開いた。赤司に掴まって車から降りると、某コ◯ンに出てくる胡散臭い博士の住んでいるような丸い、円柱を斜めに切ったような形をした家が建っていた。

「ここは?というか、私にそんな事教えていいの?あと、それが赤司とどういう関係?」
「一つ目、ここは如月愛音のロボ、美風藍の開発が行われているところ。二つ目、お前はシャイニング事務所からデビュー出来ると言ったはずだ。事務所の人間が同僚の秘密を知ってても何の損害はない。三つ目、このプロジェクトに、赤司家から資金援助を行っている。満足したか」
「二つ目以外は」
「相変わらず厳しい」

石畳の小道を歩いて行くと、玄関にたどり着いた。ドアの前に、誰かが立っていた。

「学園長先生?」
「oh!誰かと思ったーら、ms.茅野ではないですかー?todayは、どんな用事に〜?」
「赤司征十郎に連れてこられました。学園長先生と、おそらく同じ目的かと」
「Reallyーですか〜!あーなたは色々知りすぎデスネ〜ms.茅野」
「そうですね、私も思います。でもまぁ、秘密は守りますよ。センセ」

シャイニングの方を向いた憂は、片目をつむり、人差し指を唇に充てて、shh〜と小さく音を漏らした。しばらくシャイニングはぽかんとしていた(ように見えた)が、やがて大声で笑いだした。ポン、と憂の肩を叩いて、

「お前は不思議なやつだな」

と小さくこぼした。
初めてちゃんと喋ったシャイニングに憂が固まっていると、ドアが開いて、髪がボサボサの中年男性が出て来た。

「あぁ!お待たせしてすいませんね!シャイニングさん。おや、赤司さんとこのお坊ちゃんもおいでなさって…ところで、彼女は?」
「早乙女学園、Sクラスのアイドルコースに所属しています、茅野憂です。今回は赤司の付き添いで来ました」
「そうか、博士と呼んでくれ」
「はぁ…」
「さぁ、入って入って」

博士に案内されて入った部屋には簡易ベットと沢山のコード、テレビで見たようなスーパーコンピューターが並んであった。

「藍、ちょっとおいで」
「なに、博士」

そう博士が呼びかけると、部屋の奥から一人に男の子が出てきた。

「本物みたいね」
「シャイニングと赤司征十郎はわかったけど、あんた、誰」

ぐるり、と部屋にいる人物を見た藍の目は、憂のところで止まった。

「………わからない?」
「なにそれ、僕への挑戦状?待ってて……ふぅん、茅野憂。早乙女学園、Sクラスでアイドルコース所属。成績は優秀、友達もたくさんいるクラスの人気者。中学は帝光中学校でバスケ部のマネージャーをやっていた。キャプテンからの信頼は絶大…まぁ、他にもいろいろあるけど、言っても怒られなさそうのはこれくらいかな」
「おぉ!さすが…」

パチパチと素直に拍手を送った憂を見て、藍はツン、とそっぽを向いた。小さな声でぼそりとこれくらい出来なくてどうするの、という声が聞こえたが、この際は彼のプライドに免じて無視をすることにする。赤司の方を向くと、にこりと微笑まれた。

「桃井と同じくらいの信頼していたよ。憂のお陰で何度命を救われたか…」
「それだけ?」
「まさか!他の面でもだよ。さぁ、この話はおしまいだ。博士、大丈夫そうなら僕たちはもう帰ります」
「あぁ、また来月くるのかな?」
「そうかもしれませんね…あいにく京都の方に引っ越してしまって、前みたいに気軽に来れなくなったので」
「そうかそうか…まぁ、いつでもいらっしゃい。あ、そうだお嬢ちゃん」
「はい?」

玄関先で赤司と博士が話しているのをぼぉっと見ていた憂は、突然話しかけられて、びっくりしてしまった。

「たまにでいいんだ。来てくれないかな?藍の相手をして欲しいんだ。ちゃんとした年齢の近い子と交流したことがなくてね」
「……もちろん、喜んで」
「ありがとう、助かるよ」
「こちらこそ、貴重な体験ができるので…じゃあ、お言葉に甘えてまた来ますね」

ぺこり、とお辞儀をした憂は、先に出て行った赤司の後を追った。

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