昼休み。
校舎の中庭でダンスの練習をしている音也、真人と那月。課題曲が流れ終わり、休憩に入った。

「じゃあ、私も踊ろうかな」
「茅ちゃんも?」
「ハル、私がアイドルコースってこと忘れてない?」

そう言って、CDプレーヤーに入っていたAクラスの課題曲CDを抜き取って、ポケットから出したCDを差し込んだ。
緩やかなダンスチューンが流れるが、憂は激しい振り付けで踊っている。
ミスマッチではないかと思ったが、意外にマッチしていたことに、その場にいや人たちは驚きを隠せなかった。

「すごいな…」
「ですねぇ」
「でも、友千香もだけどさ、やっぱ男子と女子じゃ、なんというか、振り付けの感じも違うよね」
「そうですね…激しい振り付けですけど、どこか優しい雰囲気ですね」

そう評価されながら、憂は踊っていたが、一瞬だけテンポが遅れたことに、誰も気付けなかった。いや、一人だけいた。

「おい憂、ワンテンポ遅れてるぞ」
「あっちゃー、やっぱ翔にはバレるか………」

廊下から芝生に出てきた翔は、被っていた帽子を憂の頭に被せた。

「見てろよ、これが正解だ」

そう言って、翔は最初から踊り始めた。

「やっぱすげー!」
「これが僕たちAクラスとSクラスの差、ですねぇ」
「もっと、精進せねばな」

口々に感想をいうAクラストリオを見ていた憂は、廊下にいる人を見て、その人に向かって叫んだ。

「おーい!レーンー!」
「なんだい?茅ちゃん。デートのお誘いかな?」
「私とデートしたいなら赤司を通せ。あんた作詞課題出してないよね?締め切り近いよ?」
「日向先生怒ってたぜ。次は実罰だって」

一曲踊り終わった翔もレンにいうが、当の本人は聞く耳を全く持たず、春歌を口説いていた。
その時、廊下から誰かが近づいて来た。

「神宮寺レン!」
「龍也先生…」
「日向先生…」
「やぁ、リューヤさん」
「授業はサボり、課題は一切出さない。これ以上ふざけるなら容赦はしない。即刻退学だ!」

そう厳しい顔つきで言った龍也に、レンは近づいた。

「顰めっ面はレディにモテないぜ?」
「調子のってんじゃねぇぞ!俺はマジだぜ、明日の放課後までに評価を得られなきゃこの学園から出て行ってもらう。いいな!」

聞く耳を持たず、というように手をひらひらと振りながら待っている女子生徒達の元に戻ろうとするレンを、憂は呼び止めた。

「レン!」
「なんだい?憂ちゃ…ん」

レンは一瞬、自分の母を見たかと思った。透き通るような青い目に、陽に照らされてキラキラ光る色素の薄いブラウンの髪の毛。もう一回よく見ると、それは憂だった。

「レン、私、あなたのこと信じてるから」

強い意思が込めらてたようなその優しい目も、母とそっくりだった。レンは、思わず泣きそうになった。
立ち去った神宮寺を見て、憂も歩き出した。それを翔が呼び止めた。

「おい憂、どこ行くんだ?」
「ちょっと、職員室に、ね」

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今度の作詞のテストとレコーディングテストを終えた憂は、放課後の学園ではあまり見ない姿を見つけた。

「トーキヤ!今日はないの?」
「憂でしたか…今日はオフです」
「え、何、その嫌そうなものを見る目」
「……いや、別に。嫌ではありません」
「その間、おかしいよ?そーれーよーりーぃ、なーにみてるの?」

ひょっこりと窓から外を覗いた憂は、懸命に何かを探す春歌を見つけて、ひゅう、口笛を吹いた。

「楽しそうなこと、してんじゃーん」
「手伝わないのですか?」
「まさか!私の出番はもうちょっと先、かな」

ポケットから出した銀色に光る鍵をクルンクルンと回した憂を、トキヤは見つめる。

「放送室の鍵、ですか」
「そ、ご明察」
「よく借りれましたね」
「ほらぁ、私って品行方正な優等生だからぁ?先生に頼めばちょちょいと、ねぇ?」
「どこがですか」
「え、トキヤにそんなこと言われるとか心外」

まぁ、私はもう行くけどね〜!何て言いながら廊下の奥に消えていく憂を、トキヤは見つめた。その顔が、少し緩んでいることに気づかないまま。

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「レン、ここ」
「放送室、かい?どうやって鍵を?」
「優等生の権限です!ほら、早く」
「……ありがとう、憂」
「うん、礼は後で改めて貰うから、さっさと歌っちゃいなさい!」

バン、とレンの背中を叩くと、レンは少し笑ったような気がした。

「一件落着、かな?」

マイクの前で伸びやかに歌うレンを見て、憂が微笑んでいると、ポケットの中に入れていたスマホが不意に震えた。
差出人は赤司からで、今度の休みに東京に帰ることになったから、少し付き合ってくれないか、という内容だった。了承の意を伝えると、すぐさま待ち合わせの場所などが送られてきた。それを確認し、スリープ状態にして、顔をあげると、すぐ目の前にレンが立っていた。

「終わったの?」
「あぁ、これも全て子羊ちゃんと憂のおかげだ」
「ふふ、素直でよろしい。これからは、ちゃんと授業に出るんだよ」
「ふっ、了解」
「よしっ!お祝いにイタリアンでも食べに行こうか!」
「エスコートするよ、レディ?」
「うん、これからもよろしくね、レン」
「あぁ、こちらこそ」

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