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※相変わらず士郎が出張っています
ランサーと元協会住み魔術師の続編



ここまでの事情をかいつまんで説明すると、なまえさんはすっと目を細めて、キャスターに目線を向けた。

「ふーん、キャスターの旦那の浮気調査、ねー」
「いや、そういう浮いた話じゃなくて……どうしてこっち見るんですか、なまえさん」
「堅苦しいなぁ、それ。別に敬語抜きで良いよ、名前も呼び捨てで」

遠坂から聞いた話では、なかなかやり手の魔術師らしい彼女、ちょっと年上と聞いていたから言葉遣いには気を遣っていたが、それは要らぬ心配だったようだ。正直なところ、年上に見えないのだが、そういうのは心に仕舞っておくべき事項らしい(遠坂からの受け売り)。

「じゃあお言葉に甘えて」
「なんかさー、女心がちっともわからなそうな男2人と一緒ってのもアレかなってーーーあいたっ」
「冷めるぞ」
「……どうもありがと」

女心がわからないとかそういうのは、返す言葉がない。居心地の悪さを感じながら返事に窮していると、彼女の頭の上にお盆が降ってきた。
ごん、それなりに重たい音が鳴る。微塵も手加減していないな、これ。ご愁傷さまって言うべきか。
そのランサーが運んできた紅茶が、慣れた手つきでテーブルに並べられるのを無言で見つめる。やっぱりお金がかかるだけある。顔を近づけなくても香りが立っているところや、心なしか透き通っている濁りのない紅茶の色とかが、そこら辺のスーパーとかで売っているティーバッグのものとの違いか。
なまえが恨みがましそうにランサーをひと睨みすると、おもむろにティーカップに口をつけた。なんというか、様になっているな、こっちも。
恭しく給仕するランサー、優雅にそれを頂くなまえ。二人とも口さえ開かなければ、見た目だけは貴族の執事とお嬢様みたいだ。うん、口さえ開かなければ。


「よし。じゃあ、俺がひとつ探りを入れてきてやろう」
「ちょっ……ランサー……!」
「なあに、調査費用はサービスにしといてやる」
「へーえ?戦馬鹿にそんな器用なこと出来るわけ……なにするの、もーっ」

ぐりぐりと乱雑になまえの髪をぐしゃぐしゃにして、ランサーは足取り軽く藤ねえたちのテーブルに向かっていく。藤ねえと葛木先生の浮気疑惑が晴れるなら、こちらとしては願ったり叶ったりだが。妙に気合い入ってないか、ランサー。なんか、見るからに機嫌良さそうだ。
それに、思っていたより仲良いな、ランサーとなまえの二人。頭叩いたり撫でたり、軽口を叩いたりと親密さがありありと出ていて、らしいといえばらしいが、事前に想像はしていなかった。


乱れた髪の毛を直し、ランサーの背中を見送ったなまえが口を尖らせて頬杖をつく。

「なーにあれ、探偵気取り?似合わないー」
「ちょっとそこ、静かにおし!聞こえないじゃない!」
「はーいはいー、すみませんー」

真面目な顔で2人とランサーの会話を見守るキャスターから注意が飛ぶも、なまえは然程気にしていないように流している。もしかしてこの人、本当に面白がるためにここにいるんじゃなかろうか。他人の不幸はなんとやら、こういうのは第三者から見たら楽しいってよく言うし。

「そういえば、なまえは何しに来たんだ?お茶しに来ただけには見えないような」
「まさかぁ。こんな高い喫茶店に、紅茶飲みに行く以外の用事なんてないでしょー。味わなくっちゃ勿体無い」
「そ、そうか」

はぐらかされた。ストレートティーを少し口に含み、なまえが悪戯っ子の様な笑みを見せる。こういうところ、遠坂に通ずるものがある……というか、遠坂以上にやりにくい相手だ。

「……結局、誰かが定めた形の関係が1番シンプルでわかりやすいんだよねえ」
「?」

ティーカップを戻し、視線をキャスターの方に向け、笑顔を引っ込めたなまえがため息まじりに呟く。隣にいた俺でさえ聞こえるか聞こえないかのボリューム。聞いてよかったのか良くなかったのかが判別し難いくらいの、小さな独白だった。

「……良いなぁ……」

言葉から察するに、彼女はキャスターと葛木先生のことを言っているのだろう。
歪でも、傍から見たら滑稽でも、ごっこ遊びだなんて揶揄されようとも。いや、だからこその羨望なのか。

返す言葉も見つからない。いや、俺はここで返すべきではない。
わからないけど俺なりに解釈するならば、きっと、彼女が求めているのは単純なもので。しかし、それでいてとてもーーー。



「なに黙りこくってんだ、おまえら」
「ランサー」

こちらの席に戻ってくるなり発した第一声がそれだった。各々で思索に耽っていたようで、その声に反応して顔が上がる。真っ直ぐにランサーと目があった。

「ま、だいたい掴めたぜ」
「……本当に?」
「なーにが掴めた、よー。さんっざん女の子に振られてる癖して、どうやったら理解でき……」

正しくは、ナンパに失敗している、だろうか。そう意味に違いはないが。
慎重な反応のキャスターをよそに、ここぞとばかりに茶化しにいったなまえが、手酷い仕返しにあっていた。

ビシッと音が聞こえるくらいのデコピンをくらい、赤く腫れてしまった額。ふくれっ面でランサーを見上げる姿は、どう見たってどこにでもいる普通の女の子だ。

「そんじゃ、これまでのツケは今日清算しましょうか『お客様』?」
「何のこと?私ココに来たの初めてだからわっかんないなぁー」

頬っぺたをぐりぐりと抓られながらもすっとぼける、隣の彼女の本心は謎のまま。にっこり笑みを浮かべるなまえの瞳の奥に、一体何を抱えているのか。

ああ、本当に女心ってやつはわからない。