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hollowでのお話。ネタバレ有り。
※ちょっと本人たちの出番少ない。士郎くん出張ってます。





「んー?なんだか騒がしいお客がいるのねえ。せっかく静かそうなお店を選んだのに」

藤ねえの大きな声が落ち着いたBGMの流れる静かな店内に響いて、心臓がひときわ大きく跳ねる。咄嗟にウェイターとして注文を取りに来ていたランサーの体の影に隠れ、キャスターはテーブルの上に立てたメニューを盾に顔を隠していた。
バレなかった……と思いたい。一成との約束をすっぽかしてまで、俺は一体何をやっているんだろう。


葛木先生と藤ねえの(キャスター曰く)逢引を尾行し、辿り着いた先は喫茶店だった。2人の後を追うには、この喫茶店には入らねばならない。しかしながら普通に入店したら、席に案内される前に藤ねえたちに見つかってしまうかもしれない。一瞬の逡巡の後、キャスターと視線をかわし、極力音を立てないように扉を開ける。
彼女の瞳は言っていた。「強行突破しなさい」と。

藤ねえたちにバレないようにするため、店に入った瞬間声をかけてくれようとした店員に身振り手振りで静かにするように訴え、半強制的に巻き込む形で協力してもらった。無言のまま、視線とジェスチャーで藤ねえたちから遠い、周りに誰もいない席に案内される。その隅っこの4人がけの席に、キャスターと向かい合うようにして座ったのだった。

正直、これで強盗か何かだと勘違いされても文句は言えない位怪しい二人組だったと思われる。頭が痛い。
頭痛に頭を悩ませるのをよそに、キャスターは真剣な顔で聞き耳を立てている。メニューもそっちのけで盗み聞きなんぞしている様子に痺れを切らしたのか、はたまた興味があるのか。身を縮こませる俺たちに、ランサーが小声で問いかけてきた。

「何やってんだ、おまえら。ん?顔を合わせたくない客でもいるのか?」
「そうなんだ、実はーーー」

キャスターは渋い顔をしているが、ここでウェイターをしているランサーになら話しても良いだろう。上手くいけば協力してくれるかもしれない。そう判断し、小声で事情を説明しかけていたところで、

「なーにやってんのここで。密会?」
「うわっ!?」

女の子の声が割り込んで来た。思わず声を上げてしまって、憮然とした表情のキャスターの冷たい視線が刺さる。
その声の持ち主はランサーの背中側からひょこっと顔を出し、にこーっと人懐っこそうな笑みを浮かべた。

「なんだ、お前か」
「なんだとはなーに、失礼だなぁ客に向かって。あ、私はいつもの、よろしくー」
「へいへい」

慣れた様子でランサーとの軽口の応酬をしているのはなまえさんだった。
元々は教会に住み込んでいた魔術師で、今はカレンから逃げるようにして(?)別の場所に居を構えていると聞く。意外にも遠坂たちとは上手くやっているようで(主に資金的な意味で)あかいあくまはなまえさんに懐柔されているとかいないとか。可愛い顔してやることはやっている、案外抜け目のない人だったりする。以前に住み込んでいた縁が深いのか、最近はランサーや(子供の姿の方の)ギルガメッシュと居るのを見かけることが多いと聞くが、真実はいかにーーーというのは置いておいて。

ランサーにきっちりきっぱり注文をして、なまえさんは4人がけのテーブルの前で立ち止まった。

「どっちか隣、座らせてくれる?面白そうだから交ぜてもらおうっと」
「ならボウヤの方に行きなさい。こっちは真剣なのよ、面白いものですか」
「じゃあ、衛宮くんの隣、失礼させてもらうね」
「あ、はい。どうぞ」

自分にとっての一大事を面白そうと称されたのがお気に召さなかったのか。大変不機嫌そうなキャスターのセリフに従い、横の席になまえさんがちょこんと座った。そのまま、持っていたバッグをテーブルの下のカゴ(手荷物を入れておくものらしい)に入れ、何やら楽しそうにキャスターや藤ねえたちの様子を見つめている。
どくんどくんと普段より数段早く血が巡る。近くで見るとやっぱり華奢なんだ、と平和ボケした感想を抱き、その瞬間、

「……!」
「どーしたの、衛宮くん。変な顔してるー」
「い、いや気にしないでください」

今、ほんの一瞬、だが確実にヤツから殺気が向けられた。咄嗟に視線を向けても、カウンターの向こうの槍兵は素知らぬ顔で自らの仕事に励んでいる。

何だったんだ、今の。意図の読めない出来事に混乱し、内心頭を抱えた。一体どうしろってんだ。

そのことに気付いているのかいないのか、それとも隣に座っている人間の様子がおかしいと思ったのか、なまえさんがこちらを向いて小さく問いかけてきた。彼女の表情は疑問を問いかける時のそれだが、目は僅かに笑っている。いや、これは気付いているな、絶対。分かった上で楽しんでいるのか。流石は遠坂を手懐ける人だ。
ブンブンと首を振り、何でもなかったことをアピールし、何気なく窓の外を見やる。
彼女とランサーの関係は良く知らない。二人ともそういうことをペラペラ話す性格ではない上、そもそもなまえさんがどういった立場の人なのかすら知らない。ただ、二人揃った時の雰囲気が、やりとりをする際の息が合ってる様子が、ただの知り合いというレベルに収まるものではない、そのことくらいしかわからない。

今日は厄日か。とにかく無関係な人間を巻き込まないでほしい。
店内のBGMに合わせて指で軽く机を叩いている、どう見ても普通の女の子にしか見えない横顔を視界に入れながら、この奇妙な空気感に頭を悩ませるしかなかった。

続きます