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「俺んとこの野郎に勝てたら考えてやっても良いが」
「その言葉、絶対に忘れないでくださいよお兄さん」

ほんの十数分前に、軽々しく言ってしまった言葉をひどく後悔している。きっとどうかしていたに違いない。

ったく、とんだ面倒女を連れてきてしまった。




「私、刀持ってないんですよね。一本、テキトーなの借りて良いですか」
「ほらよ」

ひょい、と投げて寄越した木刀を、バタバタと危なっかしく受け取る女。物珍しそうにそれを眺めている姿に、激しい頭痛に襲われる。
女物の着物で動けるのかと思っていたら、女が着ていたのは袴だった。それも、女性用と思しき落ち着いた中にも華やかさがある、そこそこの値段のしそうなもの。路地裏で絡まれた時は暗くてわからなかったが、薄汚いと思っていたそれも(所々シワにはなっているが)案外綺麗なものだった。ますます怪しい。裏に何を抱えているのかと想像するだけでも嫌になる。
だが、だからと言って何かが大きく変わる訳でもない。精々、薄汚れた女から訳ありで面倒な女に呼称が変わるくらいか。早々に諦めさせてここから追い出す、結局の所やるべき事は変わらない。
気がすむまで待ってやる義理もない。何を持ってこようが知ったこっちゃない。その時は問答無用でスルーするだけだ。そう心に決めて買ってきたばかりのタバコに火を点ける。
木刀ってこんな重たいんですか、としみじみと呟いていた女は、不意に顔を上げてにっこり笑った。

「それで、お相手してくださるのはどなたですか、お兄さん」
「……本当に良いんですかィ?このへなちょこ女が俺に勝てるとは思えねェですぜィ」
「わー、女の子にモテそうな顔のお兄ちゃんだ」

間延びした気の抜ける声に、一気に脱力する。成る程、総悟の言葉にいちいち突っかかるほど短気ではないらしい。耳には入っているはずだが、笑みを崩さないのは余裕の表れか、それとも……。

「じゃ、3本やって2本先取……」
「ちょっと待っていただけますか。是非、一本勝負でお願いします。私、すっごいお腹減ってるんで」
「は?」
「それに、痛いの苦手なんですもん」

なんですもん、じゃねえだろうが。ニコニコと笑う彼女に毒気を抜かれながら、縁側に腰掛ける。

刀の構え方すらなってない、馬鹿正直に一直線、総悟へと向かっていく小さな姿を見て、肩の力がどっと抜けた。
余裕ぶっこいてるから、どんな戦い方をするのかと思っていたら拍子抜けだ。これでは一瞬でヤツに返り討ちにあうに違いない。
怪我の面倒まで見ないといけないのかと頭を抱えつつ、やれやれと天を仰いだ、その時。

からん、と木刀の落ちる音がした。

「な、んだと……」

いつもだったら拳銃か短刀なんですけど、と呟くと、手にした木刀をぽーんと放り投げる。

「参りました。お兄ちゃん、えらい強いですね。初対面で良かったぁ。もう2度と勝てる気しませんもん」

何が起こったかわからなかった。
あり得ないことに、女は、地面に背中をつけた一番隊隊長の上に馬乗りになっていた。