×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




眠い。つってももうそろそろ朝ごはんの提供が終わりそうな時間帯だけど。朝ごはんを食堂からかっぱらってきてマッハで胃の中に詰め込んだけど、眠気は一向に収まらない。これはちょっとばかし困ったなぁ、今から仕事だってのに。こんなの、阿伏兎に見られたら何て言われるか。
止めようにも止められない、大きな欠伸を押し殺しつつ、早足で阿伏兎の元へ向かう。

音を立てて勢い良くドアを開ければ、そこには予想通り、渋い顔をした阿伏兎。

「おはよ、阿伏兎。今日もご苦労さん」
「ああ嬢ちゃん、そう思うなら仕事を手伝ってくれ」

なんか、物凄い見てられなかった。ご苦労さんとか、そんなやっすい言葉で片付けられるような雰囲気なんかじゃなかったんですけど。何が悲しくて上司のあんな顔、朝から拝まないといけないのさ。

「はいはい、何すりゃいーの?」
「団長の目覚まし係だ」

何ですと。朝っぱらからそれはちょっとハードル高く無いですか阿伏兎さん。
ここ数日、あんまり機嫌のよろしくない団長を起こしに行った人は皆こてんぱんにされている。本人曰く寝起きで力が制御できないとかなんとか。いやほんとマジで、起こす側の私たちからすりゃ迷惑以外の何物でもないんだけれども。ふざけんなって感じだけど。

「あの、阿伏兎さーん、他のお仕事は無いの?」
「悪いがお前さんが一番の適任者だ。こっちはこの通り、どこかの団長の溜めた仕事をこなすので手一杯でね」

文字通り山のように積まれた書類の束たちを手で示され、たじろぐ。団長を起こしに行かねぇんなら、お前さんがこれをやるか、と脅されているような気分だ。

「はぁーい、行ってきますー」

行くっきゃない。この前やらかした団長の後始末をやっとこさ終わらせたばかりだってのに、こんな短いスパンで大量の書類仕事が回ってくるとか絶対嫌だ。小一時間机とにらめっこするくらいなら、団長の相手する方が幾分かマシである。肉体労働だけど仕方がない。片手をテキトーにひらひらと振り、阿伏兎の気が変わらないうちにと退散することにした。




阿伏兎によると阿呆提督が団長をお呼びらしい。アホ、じゃなかった阿呆提督も何考えてんだか。あ、考えてるってか操られてるってのが正しいのか。あの人、権力とかに弱そうな感じだしねえ。
団長の部屋の前に立ち、深ーく深呼吸。昨日までに犠牲になった奴らみたく、病室送りにゃなりませんよーに。ま、カミサマ信じてるわけじゃあるまいし、願っても無駄なんだろうけど。

おはようございまーす、失礼しますよーと声を掛け、慎重にドアを開ける。なんかベッドの上に丸まった物体があるんですが。掛け布団らしき布にくるまった団長らしき姿があるんですけれども。案外可愛い寝方すんだな、あの人。

「だーんーちょー!起きてますかー!」

近づいたら殺られそうだ。十分に距離を保ったまま、少し声を張り上げる。……まあ、返事がないのは百も承知ですが。こんなんで起きるんなら誰も苦労してないわ。

「ほら、団長起きて。もう起きないと仕事だよ」

しょうがないから、側に行って白い物体を軽く揺さぶる。数秒間続けてると、頭だけスポッと出した団長が、パッチリした目を瞬かせてこっちを見た。と、そのまま一気に目が細められる。
あれれ、眉間に若干シワが寄ってるけれども、意外と目覚め良かったよ団長。でも、いっつもニコニコしてるから、笑顔以外の表情見るのは新鮮かも。

「……なまえ、代わりに行ってきてよ」
「ふざけないでよね」
「ふざけてないヨ」

訂正、あんまり気分は良くないらしい。まあ、安眠を妨害されたら誰だって不機嫌にはなるだろう。この人の場合、その不機嫌さが顕著に出るのが問題なわけで。こちとら好きで起こしてんじゃないから、当たられても困るんだ、ホント。

「その口調のどこがふざけてないのよ全く。私らが何回肩代わりして、何回後片付けしたのか解ってる?」
「……」

黙りですかそうですか。起きたばっかで頭が回ってないってのもあるのだろうが、そろそろ覚醒してほしい。
今まで起こした人たちがどんなシチュエーションでボコボコにされたのかは知らないし知りたくもないけど、奴らみたく包帯まみれになるのは御免だ。

「それに、今回ばかりは代役は無理だよ」
「何で」
「ん?寝起きで機嫌悪い?でも強制だからねー」

うん、私らで何とかできる問題なら、わざわざ団長を起こしにきたりなんかするもんか。肩代わり出来ないから、こうしておっかなびっくり起こしにきてるんです。

「阿呆提督がお呼びだよ、団長サマ」

ご馳走でも付いてるんじゃないの、と囁いたら団長の表情がほんの少しだけ柔らかくなった。
やっと意識がはっきりしたらしい。むくりと緩慢な動きで起き上がり、こちらにいつものニコニコ笑顔を向けてきた。

「おはよ、なまえ」
「いや、もう朝とは言えない時間だけどね、団長」