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当主の指示で、たまたま立ち寄った日本の冬木市。さてロンドンに戻ろうと思っているところに、ばったり出会ったのは時計塔で数日前から行方不明だったウェイバー=ベルベットだった。

金魚のようにパクパクと口を開けていたウェイバーは、隣の大男に小突かれて我にかえると、引きずるようにして洒落た住宅に連れ込んだ。ここで待ってろ、と二階の彼の自室らしき場所に押し込まれ、大男と視線を合わせたまま、奇妙な空気が流れる。
何でまた、こんなことになっているんだ。

今の時代には似合わない覇気溢れるこの大男は、ライダーと言うらしい。それも、真名は世にも有名なイスカンダルと。一見どうにも信じられない話ではあるが、現在過去未来から英霊を召喚する聖杯戦争の真っ只中である。本人がそう名乗るから、実際そんな感じなのだろう。確かイスカンダルって背がちっちゃかったんじゃなかったか、とかは突っ込んではいけない事項なのかもしれない。

目があう。反射的に背筋が伸びた。

ニヤリと思い切り歯を見せながら笑っている。坊主とはどういった間柄だと、どっかり床に腰を据えているライダーが問うてきた。
なんか、勝手に緊張してたのが馬鹿みたいだ。嫌味なく豪快に笑う姿に、肩の力がすとんと抜ける。

「人として一番の理解者、かな。そんな存在でありたいです」

ただの友達と言うには関わりすぎた。魔術関連の協力関係と言うには互いのことを知らなすぎる。一言では言い表せない、そんな感じ。
それでも、彼の周りにいる以上、足枷にはなりたくない。求められれば応える、求められなければ現状維持。ただ、それだけのことでいい。

「そんな取って付けたような誤魔化しを聞きたいのではないわ」

ライダーの声音に若干の不機嫌さや不満さが混じった。視線が返答を待ち望んでいるのが身に染みてわかる。
取り合えず、そんな相手の表情は見たくないから右に視線をそらした。
なるほど、この人と私では当たり前だが価値観が違いすぎる。私にとっては誤魔化しているつもりはないけれど、もしかしたら回りくどかったかもしれない。この人はしっかり言葉にしてみろと、そう言っているのか。どっちがマスターで、どっちがサーヴァントなのかわかったもんじゃない。寧ろこの人に育てられているんじゃないだろうか、ウェイバー。
どうだろう、はっきりきっぱり簡単に表現するとすれば。

「私、ウェイバーのこと、好きですよ。大好きです。でも、私たちの終着点は、そんな甘ったるいものじゃないですから」

ライダーの目が、ほんの僅か、小さく見開かれた。それに見て見ぬ振りをし、そのまま言葉を紡ぎ続ける。

「嫌われていない自信ならあります。多少の程度の差はあれど、私はウェイバーの事が好きで、その逆も成立する。それだけで良いんです」

夢がない話と言うだろうか。時代を自由に生きたこの人には、窮屈な考えだと思われるだろうか。
それでも私は、貪欲にはなれない。魔術師としての生き方を知り、そのまま受け入れ、捨てられない私には、自分から追い求めることが出来ないのだ。

「あいつは、生まれではなく、魔術師としてでもなく、ただのなまえとして私を見てくれている。これ以上、何を望めば良いんでしょう?」

世間でいう恋人なんて関係、私たちには似合わない。そんな小さな枠組みに、今更入りたいとも思わない。名前をわざわざつけなくても、私と彼の関係は変わらない。


「私、結構幸せです」


そして、きっと、私がウェイバーと過ごす時間にどれだけ救われてきたかなんて、張本人は知らないのだろう。