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純朴スペクタクル番外編

「佐倉、これ頼めるか?」
「うん!」

野崎くんから原稿を受け取る。よし、今日も頑張ろうという意気込みと共に机に向かったところで、ふと思い当たった。
最近、堀先輩となまえ先輩、二人一緒に野崎くんの家にいる気がする。
堀先輩が野崎くんの家にいることは良くあるんだけど、なまえ先輩が一人で来てるのは見たことない。ってことはもしかして、なまえ先輩が、堀先輩の予定に合わせて一緒に来てる、とか。

うわぁぁぁ、と自分の考えに悶々としていると、机の上に置いてあったなまえ先輩の携帯電話が鳴り出した。
あ、これ、この前テレビでやってたドラマの主題歌だ。先輩、これ好きなのかなぁ。

ずーっと鳴っているから、メールじゃなくて電話なのかな。正面で背景を描いていた堀先輩と目があう。そのまま揃って携帯の持ち主を見る。台所で鼻歌を歌いながらコップやお皿を洗っているなまえ先輩は気付いてないみたい。
しょうがねえな、とぼやきつつも堀先輩が携帯を持って、台所へ向かっていった。

「携帯鳴ってるぞ。電話じゃないのか?」
「わ、本当?ごめんね、ありがと」

慌てて手を拭き、携帯を手にしたなまえ先輩は、ぱたぱたと慌ただしく玄関の方に去っていく。こっちは作業中だし、電話してる声が聞こえないように気にかけてくれたのかな。

いけないいけない。ぼんやりしてる暇はないよね。もうそろそろベタやらなくっちゃ。そう思って筆に手を伸ばしたところで、堀先輩が何とも言えない表情で思案しているのに気がついた。どうしたんだろう。

「先輩、どうかしたんですか?」
「なぁ佐倉。あいつに彼氏いるのか知ってるか?」

えっ。

あまりの衝撃に、言葉を失った。
あいつっていうのはつまりなまえ先輩のことだよね!?なんか堀先輩が恋愛系の話を振ってくるなんて意外すぎて、っていうかさっきまで先輩たち付き合ってるのかなーなんて考えてたのに、なんかもう頭がごちゃごちゃだよ!

「先輩、その話詳しく聞かせてください!」

野崎くんがキラキラ笑顔でペンを握りしめてる!これ絶対ネタにする気だよね!?相談に乗る気なんて、ほとんどないよね!?
それを知ってか知らずか、堀先輩は声のトーンを落として話し始めた。

「今の電話、あきらって奴からだったんだけどよ」
「あの。先輩、わざわざ確認したんですか?」
「いや、画面に表示されるだろ。たまたまだ」

びっくりした。気になりすぎて確認したのかと思った。そうだよね、堀先輩がそんなことするわけないよね。

「男の子からの電話ですか」
「俺、あいつが男と話してるの、ほとんど見たことねえんだよな」
「中学の時は、結構、男子バスケ部の部員と仲良くしていましたよ」

ばっ!と効果音が付きそうなくらいの勢いで、堀先輩が野崎くんの方を振り返る。

「ってことは、つまり……」
「バスケ部の男子からの、デートのお誘いだったりして!」

ちょうど今日は金曜、明日明後日は休みだし。もしかして一緒に出かけませんか、とかいう要件のお誘い電話なのかも!

「でも、佐倉。俺の知ってる限りでは、バスケ部にそんな名前の人いなかったぞ」
「えっ、そうなの?じゃあ誰なんだろ、幼馴染の男の子とか?」

三人で顔を突き合わせて、声を上げて唸る。気になる。ここまで聞いちゃうと気になっちゃうのが乙女ゴコロ。ここは私が代表して、なまえ先輩から聞き出してみるとか、良いかも。

「じゃあ、私聞いてみますよ、先輩。私が聞いた方が自然な感じですし」
「頼んだぞ、佐倉」

あれ、堀先輩じゃなくて、なんか野崎くんが満面の笑みで親指を立てているよ。堀先輩よりも野崎くんの方が乗り気だよ……。先輩はどこか元気がないみたいだけど、大丈夫かな。




「あれ、みんなで集まって、何してるの?」

なまえ先輩、帰ってきた。心なしか、さっきより表情が明るい気がする。
さぁ頑張るのよ、千代。堀先輩、すっごく気になってたみたいだし。
よ、よーし、自然な感じに、自然な感じに……。

「先輩、大丈夫ですか?今の、緊急の用事とかじゃ……」
「違う違う、明日の待ち合わせの連絡だよ。別に電話じゃなくて良いのに、今すぐ決めたいからって」

やっぱりデートだよ!まごうことなきデートだよ!せっかちだな、なまえ先輩の彼氏さん(仮)。っていうか、愛されてるなぁ、先輩。羨ましいよ……じゃなくて。

「わぁ、良いなぁ、お出かけかぁ。どこに行くんですか?」
「映画だよ。向こうがどうしても見たいっていうから、今話題のあれ、可愛い女優さんが主演してるの見るんだよー」

それって最近の女子中高生に人気の、少女漫画原作の恋愛映画だよ!しかもそれ、彼氏さん(仮)の選択なんだ!
もう、お願いだからネタにしないでよね、と頬を膨らませて、なまえ先輩が野崎くんを睨む。先輩もう遅いです!さっきから野崎くんのペンは、ずっと動いたままです!
予想の斜め上を行く展開に言葉を失っていると、今まで黙りこくっていた堀先輩が、さらっと質問を投げかけた。

「へえ、誰と行くんだ?」
「あきらだよ」

ぴしっと部屋の空気が凍る。ここまではっきり言うなんて、予想外かも。なまえ先輩って、こういうの恥ずかしがりながら言うタイプだと思ってたんだけどなぁ。
先輩はそのまま、にこにこしながら話し続ける。

「堀も知ってるでしょ?私の前の席、声楽部部長の女子」

えっ、女の子?確かにあきらって名前の女の子、いるけど。この話の流れから、てっきり男の子だとばかり思ってたよ。

「でも、どうしたの?何か気になることでもあった?」
「い、いえ!気にしないでください!」

なーんだ、さっきの、女の子だったんだ。ドキドキしていた気持ちが、一気に引いていく。
でも、良かった。堀先輩、ちょっと上機嫌そう。これで私も、安心してベタ塗りに専念できるよ。頭の上にハテナマークを沢山浮かべたなまえ先輩をよそに、私たち三人はそれぞれの仕事に戻る。

この日、作業がすごく捗った(らしい)ご機嫌な堀先輩は、帰り道、コンビニでアイスを奢ってくれた。