×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


私には、ある一人の嫌いな男がいる。そいつは仕事だけに関してみれば完璧で、でも人間としては駄目すらも通り越して最早最悪。常に顔色が悪く、いつか道端でぶっ倒れるんじゃないのかと思うくらいの奴だった。因みに、その人物の名前は赤井秀一と言う。

「ああ、そういえばシュウがこっちに来ているみたいだけど」
「うっわ……」

だから、ジョディのその言葉に、思いっきり顔が引きつった。ついてないなぁ、という言葉は喉の奥に押し込む。またやってる、と言いたげな何とも言えない表情の彼女には申し訳ないと思うのだけれど、嫌なものは嫌だから仕方がない。

「絶対に赤井さんとだけは組みたくないの。仕事ならともかく、プライベートだけは勘弁!ほんとに!」
「なまえ、シュウと何かあったの?」
「別にそんなんじゃないの。ただ絶対、人間的に合わないだろうなって感じ!」

そう、その言葉通り何かとんでもない因縁があるわけでもなく。誰しも性格が合わない人間が一人くらいいる。私の場合、それが赤井さんだった、それだけのこと。

「まぁ、なまえのそれは今に始まったことじゃないから良いけど。そうそう、シュウが探しているみたいよ?なまえは何処にいるって今日聞いてきたわ」
「名前呼びするなって言っといて」
「あと報告もあるって」
「あー、やっぱ自分で言うことにする。コミュニケーションは大事よね」

仕事なら仕方ない。それくらいは流石に割り切ることができる。シュウに会った瞬間跳び蹴りしそうな顔してるわよ、とジョディに心配されたけど、恐らくきっと多分大丈夫だと思う。というか、跳び蹴りしそうな顔ってどんな顔だ。ま、これを聞いたところで「鏡で自分の顔を見てみなさいよ」とでも言われるのが容易に想像できるけれど。

「で、急なんだけど……」

不意にジョディが真面目な顔になったところで、私の携帯電話が喧しい電子音を響かせた。
着信だ。なんて最悪なタイミング。今日は良いことないな。
ごめんちょっと出るね、と目で会話し、ジョディから少しだけ距離をとって携帯電話を鞄から取り出す。
発信相手、非表示。こんなオフの時に仕事でもないくせして電話してくるのは誰だ。どうしようもなく苛々して、携帯電話を持つ手に力がこもる。

「もしもし」

我ながらすごい不機嫌な声だな、と適当な感想を抱きながら相手の発言を待ち、

「久しぶりだな、なまえ。相変わらずなようで何よりだ」
「世間話なら切るけど!」

何てどんぴしゃりなタイミングに電話してくるんだ赤井さん。
もう我慢出来ずに、間髪入れず怒鳴った。周囲の人間の視線が全てこちらに向けられ、ぺこぺこ頭を下げてから、そそくさと端に移動する。
頬に熱が集まる。携帯電話を握り潰したい衝動に駆られた。
落ち着け私、この携帯はこの前機種変したばかりだ。ここで壊して店に持っていくのは御免蒙りたい。

そもそも、何で赤井さんが私の携帯電話に電話してくるんだ。このプライベート用の電話番号は教えてなかったはずなのに。様々な疑問や苛立ちで悶々としている私はお構いなしとばかりに、通話相手はそのまま話を続ける。

「まさか。可愛げのないじゃじゃ馬女にプライベートな話をするほど馬鹿じゃない」
「生憎、私もそんな暇してないの。因みに、不健康ワーカホリック男の世話する余裕なんてないから」

「その様子なら、大丈夫そうだな」

最大級の嫌味は何事もなかったように流された。無視かよ、と心の中で悪態をつきながらジョディに目を向ける。こっちの気も知らないでのんびりお茶飲んじゃって、本当羨ましいったら。

「で、それ何の話?」
「こっちの話だ」
「はぁ?」

いつも変な奴だとは思っていたけれど、それに輪をかけて分からない、この男。
沸々と湧き上がる怒りを鎮めようと深呼吸する。1分間くらい続けたところで気づいた。そういえば、何故要件を言わない、赤井さん。

「もしもし?」

ツーツーツーと無機質な電子音。
切れた。何か知らないけど切れた。唐突に電話が切れた。何考えてんだ赤井さん。私のこの行き場のない怒りはどうすれば良いの。








「ちょっと、大丈夫?」
「今なら出会い頭に跳び蹴りしちゃうかもしれない……っていうか一発かましたい……」

流石に、今の顔は凶悪犯みたいな感じよ、というジョディのコメントに否定の言葉を返す元気は出なかった。