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大河の家に久しぶりに遊びに行った。

最後に行ったのはかれこれ数年前くらい。士郎がちっちゃかった頃だろうか。ちなみに、そのとき士郎が何歳だったかは全く記憶にない。
まあとにかく、大河も衛宮邸の家主もここにいない(学校に行っている)ために、時間潰しとして待たせてもらおうと家に上がらせている訳だけれど。
ぶっちゃけ、夜行バスとか荷物持ったまんまの冬木観光とかしてたら疲れは溜まる。面白いくらいに溜まっている。このまま炬燵に入り込んで、ぼーっとテレビ眺めながら、そのままうつらうつらしようと心に決めていたのだけれど、ね。

「……」
「……」

上着を脱いだ。脱水症状になるのは御免なのでお茶も用意した。腹ごしらえとなるミカンもスタンバイしている。リモコンは手元、もう準備はバッチリ。うん、我ながら完璧。
ご機嫌で鼻歌歌いながら、いそいそと炬燵に潜り込んだところで、ふと背後の気配に気づいた。正確に言うと、まだ電源を入れていないテレビに鏡のように映った、私の後ろにいる見慣れない人に気がついた。

寒いから、炬燵に入ったまんま、体の向きを変える。ここに知らない人がいるだなんて聞いてない。なんでそういう大事なことは言わないのよ、馬鹿士郎。いない人を責めても仕方がないのはわかってるけれどもね。

「えーと。あなたは?」
「あーーあぁ、私は衛宮士郎の知り合いといったところか」

誰なのこの人でかい。
炬燵に引っ込んだまま、ぽっかーんと口を開けて見上げている私の姿、とか考えたくもない。とんでもなく間抜けだ。

目の前にいて、若い男の人にしては地味だけどもちょっぴりお洒落(と言えなくもない)格好で、尚且つ困惑した顔で、と言うかなんでここに女がいるんだ、みたいな顔で私を見下ろしてるのは背の高い男の人だった。本人曰く「衛宮士郎の知り合い」な彼は、眉を潜めて呆れかえっている。悪かったな、こんなダラダラ眠りこけようとしている女で。生憎私は移動後で疲れてるのよ。半分ぼんやりした頭の中で悪態をつく。

不思議と、彼の言葉に疑いはしなかった。というか、近所の商店街帰りらしい買い物袋を持った泥棒とか不審者とかいないでしょう。士郎とどんな関係なのかは知らないけれど、よくもまあこんな人と仲良くなったものだ。士郎も結構顔が広かったのね。

「ふぅん?私はなまえよ。大河の友達。あなたは何て呼べば良い?」
「ではアーチャーと。呼び捨てで良い。皆そう呼んでいる」

なんだこの人外国人なのか。聞きなれない名前だけど、どっかの国にはそんな名前もあるんだろう。
自己完結して、ハッと我に帰る。流石に知らない人の前でこの格好はない。せめて寝っ転がっているこの体勢だけはなんとかしないと、なんというか人間として、更に大人として恥ずかしい。わたわたしながら身を起こす。

「いや、楽にしていて結構だ。私は客ではないのでね」
「居候とか?」
「まさか。ただ頼まれて寄っただけだ」

なんかアーチャー日本語上手いな。そんな馬鹿っぽい感想は胸の奥にしまう。
やれやれ、とでも言いたげに買い物袋片手に肩をすくめる仕草が、思いの外サマになってて面白い。というか、知り合いに買い物頼むってどうなのよ、士郎。もしかして大河、士郎のこと甘やかしてたりとかしてないよね。なんか不安になってきた。

「ところでなまえ、君は何を食べたい?」
「はい?」
「いや、君は料理があまり得意ではないように見えるのでね」

違うか?なんて言葉にしてはないけど、確信めいた顔で言われるものだから、ひゅっと喉がなった。
アーチャーの言うとおり、私は料理が得意ではない。レシピを見ながら作っても黒焦げになっちゃう、みたいな漫画的展開ではなく、作れることは作れるが味は平凡、その上要領が悪いのか何なのか時間が恐ろしくかかってしまう。苦手、というよりも好きではない、というのが正しいと思う。

「失礼ね、って言いたいところなんだけど。なんでわかったの?あなたって超能力者?」
「なに、ただの勘だよ」

そう言って、アーチャーは遠くを見るように目を細めた。
なんで知っているのかな。大河にも言ったことないのに。料理が得意でない顔だった、なんてそんなことはないだろう。そんなんだったら今頃士郎にだってバレている。一生懸命隠してきたし、絶対にバレてない筈なのに。
まあ良い。作ってくれるんなら儲けもんだ。見たところアーチャーは家事慣れしているみたいだし、初対面で申し訳ないけど、作ってもらうのも悪くない。

「そうねえ、じゃあ和食が良いな。あなたの得意なの、食べたい」
「了解した。少し待っていてくれ」

心なしかほんの少しだけ口の端っこを持ち上げて、アーチャーが台所に向かう。なんかよくわからないけど、楽しそうなら良かった。
だけど、なんか気になるというか、既視感を覚えるというか。せかせかと歩く背中を見送って、さっきの機嫌の良さそうなアーチャーの顔が頭に浮かんで消えて。

「あ」
「どうした?」
「うん、やっぱりそうだ。あなた、士郎にちょっと似てるね。類は友を呼ぶって言うけど、本当にそうなんだ」

ピタリ、と足が止まった。じゃあよろしくね。私はそう言いかけて、アーチャーの顔が、なんとも言えない嬉しいような嬉しくないような微妙なものであることに気がつく。
変なこと言ったかな、と過去の自分の発言を思い返してみても、よくわからない。
アーチャーは気にするな、と一言残して、今度こそ台所に向かう。どんどん離れていく背中が、なんだか士郎のものと重なって見えて、ほんの少しだけ胸がざわめいた。