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「あれ、大河は?」

朝早く、丁度衛宮士郎が学校に行こうとする時間を見計らったかのように彼女は現れた。久しぶりだね士郎、なんて言いながら呑気に手をひらひら振るその人は、藤村大河とよく衛宮邸に遊びに来ていた女の人だった。

「えっと、なまえ、さん?」
「おー、士郎!大きくなったねえ、あんなにちっちゃくて可愛かったのになぁ」

ぽかんと呆気にとられる士郎を知ってか知らずか、なまえはずかずかと、まるで、ごく当たり前のように家に上がってくる。
あは、背丈追い越されちゃったなーと楽しそうに呟きながら、ぐりぐりと遠慮なんてこれっぽっちもなしに頭を撫で回してくる。口をパクパクさせていた士郎が、非難めいた声を上げ、困ったように頭を掻くまでその行為は止まらなかった。

「なまえさん!」
「あーうん、ごめんねー。あんまりにも久しぶりだったもんでさー」

全然全く謝罪の意がこもっていない言葉が投げかけられるのも相変わらずだ。わしゃわしゃと掻き回されている頭を庇うようにして逃げ、士郎はなまえの顔を真正面から見る。

「あ」
「ん?」

そうか、背が高くなったのか。そんな当たり前の事を痛感する。昔は見上げていたはずの姉貴分の顔が今は若干下に見えるのが士郎にとっては新鮮で、小さく首を傾げる姿を上から見るのも慣れない。
無邪気に遊び回っていた頃とは違うんだ、と釘をさされているようで、なんだか落ち着かない。そんなこと、わかってるのだ。自分自身、わかっているのだけれども。

「士郎?」
「まあ、確かに久しぶりだな。でも俺、今から学校だし、藤ねえも学校にいるんだけど」
「そーか。じゃあ待ってるよ。ちょっとココ借りても良い?」

家の中で、なんか適当に時間潰しとくよ、もうこの辺ひと通り見て回っちゃったしさ。そう言って、ころんと居間に寝っ転がる様子は、どこか猫を彷彿とさせる。気紛れな猫。機嫌が良いと懐いてきて、何かがあったらいつの間にか姿を隠している、掴み所のないひと。なまえと過ごした時間は少なくないはずなのに、士郎が彼女について知っていることはあまりにも少なかった。

「いいぞ。腹減ってたら、冷蔵庫の中のヤツ、食ってても良いから」
「んじゃ遠慮なく。いってらっしゃい」
「……いってきます」

ふんわり、そんな表現が似合う。彼女らしいと言えば、彼女らしい寝っ転がったままの姿で、なまえは柔らかい笑みを見せた。思いがけず息が詰まってしまったのには気付かれてしまっただろうか。なまえと数年ぶりに交わした挨拶は、物凄く甘酸っぱい感じがした。