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いつも通っているお洒落なカフェでぼんやり外を眺めるのが私の至福のひとときだったり、する。最近そこに、いかにも兄貴分、な感じのバイトのお兄さんが入った。

装飾もお洒落でとびっきり美味しい癖に店内に人がいないことが多いのは、きっとマスターである頑固なあのジジイ……じゃなくてお爺さんのせいだろう。血縁関係にあるとか、そういうのはない。名前も知らないお爺さんだ。最初に入った時は、一見さんお断り、みたいな雰囲気を醸し出していた癖に、半年もすれば一瞥をくれ、じゃあなくて、ちょっと顔を上げて注文する前に珈琲や紅茶を淹れてくれるようになった。バイトのお兄さんが来てからは引きこもりになっているみたいだが。

そのお兄さんが入ってからも、多少は人が増えたにしろ、お世辞にも繁盛してるとは言えない有様だった。まあ、そこが気に入ってるからこそ、私はここに通っているのだけれど。ちなみに多少客が増えたといっても、ここに来るのは10人にも満たない、数え切れるくらいの人間だけだ。私が通ってくる前からの常連さんたちと、最近くるようになった高校生くらいの少年少女や外国の女の子や男の人。前者はともかく、金髪の男の人は一度たりとも珈琲や紅茶の類を注文するのを見たことがない。マスターは何も気にしてないみたいだが、いいのか、それ。ちなみにその人はバイトの兄ちゃんをからかってからかって、その上からかってから帰って行く。何の意味があるんだろう、あれ。物好きだな。

「今日はどうするんだ?」
「ん、いつもの」
「はいよ。ちっと待ってな」

最早客に向けられる口調じゃないってのは、慣れてしまった。あおい髪にあかい目のお兄さんが人懐っこい笑みと共に準備に入る。ちなみにマスターはパイプを咥えながら英字新聞を眺めている。本当に純日本人なんだろうか。とてもじゃないけどそうとは見えない。

「午前中に来るなんて珍しいな、嬢ちゃん」
「別に。気が向いただけ」
「彼氏にでも振られたか?」
「そうね、振られたかも。まあ相手は女の子だけど」

珈琲を片手にお兄さんが出てきた。一言礼を言って受け取る。

「どっか行く予定だったのか」
「そうよ。映画に行きたいって言ってたの。でも急遽用事が入ったんですって」
「用事?」
「彼氏。デートよ、デート。それも屋内プール」

もう、と頬を膨らますと怒りがぶり返してきた。サンドイッチも頂戴、と催促しつつ話を続ける。思ったよりも私は根に持っていたらしい。お兄さんの顔を見たら話したくなった。ただの愚痴だけど。

「女友達より男を優先するなんて、そんなのって無いわ。ドタキャンよ。こっちは一週間前から空けてたってのに」
「まあな。そりゃあ向こうが悪い。嬢ちゃんも男連れて行けば良かったじゃねえか」
「いない。そんな人いないもん」

うん。言動が子供っぽくなってる自覚は、ある。この人は話を引き出すのがうまいのだ。むう、と膨れっ面をする私はとんでもなくお子ちゃまで、甘やかされてるのは火を見るよりも明らかだ。

「ああもう。ディナーも行こうなんて言ってたのに……」

オススメのレストランがあるから、なんて言ってたから、私なりに楽しみにしてたのだ。もう、ぼっちディナー確定だけれど。冷蔵庫の中身は空っぽだし、買いに行かないとだけどスーパーに寄るのが面倒だ。

「要するに暇なんだろ、嬢ちゃん。海辺なら連れてってやる」
「え?」

ただし泳がねえけどな、という言葉が頭の中をすり抜ける。予想外の展開に、目の前の人間の顔をまじまじと見つめた。今、何かすっごく聞き逃せないことを言ったような。

「レストランとは言えねぇが、近くに美味い屋台がある。そうだな、酒もそれなりに揃えてあったが、どうだ?」
「行きます。絶対行く。勿論奢りよね?」
「へいへい」

よっし。そうと決まればここで時間つぶしをしよう。どうせマスターのことだから、夕方には閉めるだろう。なら、少しは売り上げに貢献しようかな。うん、こうやってのんびりした休日を過ごすのも悪くない。