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勇気とタイミングは君の仕事


※モブキャラが出張ります。
※堀ちゃん先輩長編夢番外編


昼休み。購買のパンにかぶりついていた私に、前の席の友人が聞いてきたのは毎年恒例のアレについて。

「そういえばもうすぐバレンタインだけど、なまえは今年どうすんの?」
「え?とりあえず声楽部に配るでしょ。うーん……じゃあ折角だし若松と御子柴、野崎にもあげよっかな」
「あんた本当後輩と仲良いよね」
「ま、色々接点あるし」

そう。校内が色めき立つバレンタイン。一応仮にも女子である私にもそれは襲いかかってきて、毎年毎年それなりのチョコレートを生産して配っている。お菓子作りが嫌いではないから苦でもないけど、苦手な人は大変なんだろうな毎年。作ろうにも手間と時間がかかるし、買おうにもお金が結構かかるし。

私は毎年部活のメンバーに配り、その年ごとに仲良しな人にあげるようにはしてるけど。
今年は野崎をはじめとした後輩たちと良く話したし色々お世話になったし(お世話もしたし)、あの辺にはチョコ渡そうかな。
ま、このメンバーは問題じゃない。野崎や若松をはじめとした大半は一回あげたことある相手だから気が楽だし、大して手間のかかる人数ってわけでもない。

だけど、今年一番頭を抱えてるっていうか気を揉んでる相手は、

「堀ちゃんにはあげないの?」
「へっ!?や、堀にあげたいのは山々だけど……!」

心を読んだのか。まさに頭の中で思い悩んでいた相手と耳元で囁かれた名前が一致して、危うく椅子から転げ落ちるところだった。

「好みとかそういうので悩んでる?堀ちゃん甘いものとかダメだったっけ。聞いてあげよっか」
「ち、違わないけど違う!聞かなくていいから!」

甘いものとかそういうのじゃなくて、そもそも問題は別のところにあるのを私もう知ってるから!そう言おうにも本人が隣にいるから無闇に口に出せず。人の制止も何のその、キラキラした笑顔で堀の方を向いて口を開くこの友人を止めるのは私には不可能だった。

「ねえ堀ちゃん。ちょっと質問なんだけどさ、」
「わ、だからやめてよ待ってってば」
「ん、何だ?」
「甘いものって苦手だった?チョコとかそういうの」

それはあまりにも直球過ぎやしませんか!?ねえ!?予告バレンタインとかハードル高すぎるから!
予想の斜め上の行動力に度肝を抜かれつつも、せめてもの抵抗として制服の袖を思い切り引っ張る。

「あー、バレンタインか?別に苦手とかそういうのはねえけどな。手作りはちょっと、」
「ええ?案外めんどくさいんだね堀ちゃん、男ってチョコ貰えればなんでも良いんじゃないの?」

ゴ◯ィバのチョコじゃないとダメってか、憎たらしそうに捨て台詞を吐く友人を他所に溜息をつく。それは誇張しすぎじゃない?そんな高級チョコレートを欲してるんじゃないと思うのだけどね。
うん、でも知ってた。それ鹿島に聞いて知ってたから。ついでに教えてくれた張本人は店のとそっくりそのままのチョコを作って渡すって打開策持ってたけど、ごくごく普通の一般人じゃそんなの出来ないからね。

「あ?別にこっちからチョコくれって頼んでるわけじゃねえし良いだろ。それに俺も全部ダメって訳じゃ、」

「おーいみょうじ!」
「ん?はーい!」

不意に教室の外から声がかけられた。教室の後ろの扉、男の子が私を見て手招きしてる。珍しいな。どうしたんだろ。ごめん、二人に断って教室の入り口に向かう。
そこに居たのは中学の時バスケ部で少し関わりのあった他クラスの男子。あー、だいたいわかったかも。この人が私のとこ来るのは十中八九忘れ物だな。

「今日は何を忘れたの?」
「さっすがみょうじ話がはえーな、古典の教科書持ってねえ?今日当たるの忘れててさ」
「持ってないのはいつもでしょ。今日はもう古典終わったしいいよ。待ってて」

でしょうね。
小走りに席に戻って古典の教科書と、ついでに何かに使えるかもしれないしノートも引っ張り出す。
プリントとか全部ノートに貼ってあるっけ、パラパラと中身を軽く確認してるところで友人と堀の意味深な視線に気が付いた。

「ん?どうかした?」
「ねえ、なまえ。あれ誰?」
「え、普通に他クラスの知り合いだけど」
「ふーん。あんたが男子と喋るの珍しいよね、仲良さそうだし。幼馴染か何か?」
「まさか。中学のバスケ部でちょっと知り合ったくらいだよ。ほら、私女バスのマネやってたから少しね」

ふぅーん、と疑わしげな返答にほとほと困り果て、堀に目を向けたけど「いや別に」と歯切れの悪い返事。
なんでなんで。二人ともどうしちゃったの?今すぐ問い詰めたかったけど、入り口に待たせたままの待ち人にノートと教科書を渡さなくちゃいけない。古典の勉強道具二つを抱え、小走りに扉の方に向かう。

「はい。オマケでノートも貸したげる。今度ジュースか何か奢ってね」
「お前は女神か!?さんきゅ、マジありがとうございまっす!ってかそれ言われると思ったからちゃんと持ってきてあるって、これを献上しますよっと」
「流石、忘れ物常習犯。こういうのは用意いーね。ありがと」

女神ってそんな大袈裟な。相変わらずオーバーだなぁ。
コツン、昔の名残で右手でグータッチしてから自分のクラスに戻る背中を見送る。ま、きっと付け焼き刃じゃ何ともならないだろうけど。
寒いから配慮してくれてるのかな。あったかいのを用意できるなんて成長したねあの人。まだ十分温もりを持つ缶で指先を温めながら席に戻る。

「?どしたの?」

なんか、言葉に出来ないけど二人の雰囲気がさっきと違う気がして問いかけてみるけど、二人とも首を振るだけ。

「いーや。ちょっと妬けちゃうねって。ねー堀ちゃん」
「何言ってんだバカ」

私絡みで嫉妬されることとか(あったら嬉しいけど)多分ないだろうし。そこまで自惚れられるほどバカじゃない。
それじゃ今のに何を羨ましいと思うことがあったんだろう?あ、運動部と仲良くしてたってこととか?でもそんなのクラスの男子にだっているからなぁ。

「バレンタイン楽しみだね、なまえ」
「え?なんでいきなりその話題に戻るの?」
「こっちの話ー!」