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噛んだ言の葉




「あれ。今日の当番って青葉だっけ」

朝ご飯の支度をしていると、大欠伸をしながら平助がやって来た。ご飯をよそいながら扉の方を見やる。本当に寝起きそのまんま来たらしく、髪は結われてないし着物だっていまいち着こなせてない。
空腹に任せて朝っぱらから摘み食いしに来たんだろう、朝食の席で永倉さんに自分の分食べられる前に。残念だけど私がいるからには阻止させてもらう。
聞いた話によるとこの人たちの食事は食料の争奪戦で何とも凄まじいらしい、主に永倉さんと平助が。正直言って全く同席したくはないものだ。

「そ。おはよ平助。珍しく早起きなんだね」
「何だよ、いつも寝坊してるみてえな言い方はやめてくれって」

あれ、ちょっとご機嫌斜めだろうか。
私は今日の朝食当番だからお誘い断らせて貰ったけど、平助のやつ昨日原田さんや永倉さんと飲み行ってた癖に早起きしてるし、何かお酒の席で気に入らないことでもあったとかかな。若しくは、好みの女の子を原田さんに取られちゃったとか、酔い潰れた永倉さんを連れて帰るのに一苦労したとか。
そんなの私に当たられても困る、平助に見えないように苦笑しながら作り立ての味噌汁を一口味見してみる。ん、少ししょっぱいかもしれないけどまあいっか。この前食べた沖田くんが作ったものに比べたら全然問題ない。

横目で様子を伺うも、まだいつもの元気は無いようだ。しょうがない。もう一度小皿に入れた味噌汁少量を無言で平助に差し出す。今回だけだからな、味見させてあげるの。
むくれた顔でそれを受け取った平助は、口を付けてからすぐ飲み切って「美味い」と顔色を変えずに呟いた。お気に召したようで何よりである。

これで機嫌の一つも直れば良いんだがそうもいかないらしい。はあ、と小さく息を吐いた様子からして気が晴れたわけではないことを察した。

「まあまあ。事実なんだし怒ることないでしょ」
「何だよ。偶に意地悪くなるよなぁ、青葉」

いや、わかりにくいけど違うな。
これは拗ねてるな、平助。昨日のお酒抜け切ってないと見た。
普段は歳上に囲まれてるが故にそっちに付いていこうとしてるから、もしかしたら日頃の鬱憤溜まってるのを吐き出したいのかもしれない。……なんて、そんなの私相手にするはずないか。

普通に拗ねてるみたいだ、これ。しかも、帰って来た時間が時間だろうから碌に寝れてないみたいだし、機嫌もだけど酔いからくる吐き気とか気持ち悪さや怠さも後からくるかもしれない。二日酔いに効くものって何だろうか、頭の中とこの場にある食材を照らし合わせながら口を開く。

「意地悪って、そんなつもりはないけど……男相手に必要以上に優しくしてもなぁ」
「うわ、そういうこと言う!これで女の子には無条件で優しいんだもんなー。オレ知ってんだぜ、青葉が恋文結構貰ってんの」
「……流石に原田さんや土方さんには負けるよ」
「その二人に対抗しようと思えるのがすげえんだって!」

何それ。やきもち焼いてるみたいだ。おかしくないか、対外的には男子であると認識されてる私に嫉妬するっていうのは。
あ、違うか。女の子にもててるってことで張り合われてるのか。そんなこと言われても別に私、言うほど恋文貰ってなんかないから。

じゃなくて。何故それを平助が知ってんだ。
返事をすべきかどうか悩んで部屋の隅に隠しておいたはずのそれ。もしかして道端で女の子に貰ってるの見てたのか。

「やけに突っかかってくるじゃん平助、どうしたの?」
「え?いや、別に理由があるんじゃねえけど」
「もしかして平助の好きな子がいたとか?……そういや、そういう話はしたことなかったな」
「違えし!好きな子とかそういうんじゃねえって!」
「……怪しいなぁ。何慌ててんの?」

何だ、女の子絡みの話か。急にしどろもどろになった平助に首を傾げる。そんなの平助に嫉妬されても困るというか、女である私より十分格好良いと思うから気にすることでも無いんじゃなかろうか。

なんかお前勘違いしてねえか、寝起きの少し低めの声で平助が唸る。そのまま口を開いて話を続けようとしたところで、ひょいとこの場に現れたのは原田さんだった。
助かった。仲良い相手だし、平助が拗ねてる理由もこれでわかるに違いない。口を閉ざした平助とは対照的に原田さんがいつもの調子で声を掛けてくれる。

「お、平助に井端か。朝っぱらから元気だな、二人とも」
「おはよ、原田さん。腹減ってるかもだけど少し待っててよ。もうすぐ朝食準備し終わるからさ」
「お、今日は井端が当番か。味も期待出来そうだな、楽しみにしてるぜ」
「はいよー」

そうだ。色恋沙汰といったら原田さんだろう。(十中八九面白がられるだろうがこの際気にしないことにしようか)こういうのは色男に相談するほかない。正直言うと拗ねてる理由も聡い原田さんだったらわかるのではないかという淡い期待も持ち合わせて、ここから去ろうとした背中に話題を投げる。

「そうだ原田さん、平助好きな子いるってさ」
「お。何だ、平助も遂に井端離れする時が来たか。お前らいつも一緒にいるからなー」

にやりと笑って即座に反応する、これが大人の余裕ってやつか。
それにしても井端離れとは何だ、年がら年中くっついてるわけじゃあるまいし。

「馬鹿何言ってんだよ青葉!ってか井端離れって何なんだよ左之さん、オレ青葉にべったりじゃねーし!」

あ、良かった気が逸れたようだ。頼むから平助の悩みも解決してくれよと願いつつ、二日酔い(疑惑)の2人にお茶をいれるためにお湯を沸かすことにした。

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