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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ローグタウン。偉大なる航路の一歩手前、海賊王が生まれ、処刑された町。
様々な夢を持った東の海の猛者たちが立ち寄る、お世辞にも治安が良いとは言えないこの島に、彼女の働いている酒場はあった。
大通りから一本入った人通りの少ない裏道の、気の強い奥さんに尻に敷かれた亭主が切り盛りしている鍛冶屋の横。若い女が入るのを躊躇うような、言い方を変えれば無法者がバカ騒ぎしているちょっと古びた建物の一階にある酒場。閑散とした裏通りとは対照的に、年中無休ひっきりなしにむさ苦しい男どもが集うこの店で、マスターと彼女、背の高い眼鏡の気の弱そうな従業員―――名前はレンという―――の男は働いていた。


「はーい、いらっしゃいませー!」

カラン、と錆びたドアベルが来客を伝えると同時にリオルは声を張り上げた。
酒臭い、生暖かい風がぶわりと頬を撫で、オレンジ色の髪の毛の女があからさまに顔を顰めながら入ってきた。これは店の選択を間違えたかしら、と小声でぼやきつつお付きの黒い服の男のエスコートで彼女は店内に踏み入り、それに引け腰になった長っ鼻も続いた。

おお、ラッキーかも。嬉しいなあ、ひっさびさの若い女の子のお客さん。リオルは少しだけ口角を上げた。

オレンジの彼女の反応もそう不思議なものじゃない。そんな表情はともかく態度は堂々としている、寧ろこの場に馴染んでいるから大したものだ。
ここまでしれっとこの店に入ってくる若い女なんて、そうそういない。何せ、入った途端に耳に突き刺さるのは酔っぱらった男たちの無遠慮な歓声、時折聞こえるガラスの割れる騒音。そして目に入るのは床に転がる空の酒瓶。月に数回くらいは酒豪の女性数人が海賊の付き添いで来たりするけど、それすらも稀である。
店員のリオルですら嫌悪するくらいの、品の欠片もない男たちの笑い声が行き来する惨状を一目見て、そのオレンジの女が深い深い溜息をついた。

「偉大なる航路に入る前に、少し情報収集でもしておこうかと思ってたんだけど……この店じゃちょっと難しそうね。この店のマスターにちょっと話を聞いて、さっさと出ましょ、こんなところ」

こんなところという彼女の苦々しい酷評については、この場の誰も否定しないだろう。どうひっくり返したって女子供にとって楽しい場所ではない。

偉大なる航路に入るってことはもしかして、あの3人は海賊なのだろうか。ローグタウンからわざわざリバースマウンテンを通るなんて危険な道を選んでいるというところから鑑みるに商人とかではなさそうだ。

へえ。ふうん、面白いなあ。
リオルはにやける顔を隠そうともせず、いつもの数倍軽い足取りで3人に近づいた。



mae tugi 1 / 7
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