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昼休み、部長を探していたら文化部の部室が集まっている辺りまで来ていた。教室からだいぶ離れてしまった。これは携帯で呼び出した方が良かったかな、と電話をかけてみるけども全然出てこない。どこに行ってるのかな、うちの部長は。さっき購買でパン買ってくるって言ったっきり帰って来ない。どこほっつき歩いてるんだろう。

連絡がきますようにと念じながら携帯の画面と睨めっこする。
あ、そういえば、昨日堀たちとメアドを交換したんだっけ。一体全体全国で何人の人が相手の名前(フルネーム)を覚えるためにメアドを交換するのかな。メールする機会が全くないまま、残りの高校生活が終わっちゃいそうな気がするような。

ふと顔を上げると、演劇部の部室が目の前にあった。こんなところまで来てしまってたのか。
ぼんやりと眺めていると、まだ夏真っ盛りなのに、ぶわっと一気に鳥肌が立つ。
あ、そうだ。ここで、私、王子様に出会ったんだっけ。あの時は偶々声が聞こえて、誰が何してるのか気になって、それで。聞き取れた台詞は、えっと、

ーーー君に一つだけ望むならば、こんな馬鹿な男が、

「長谷部?何してるんだ?」
「う、わーーーーっ!?」

びっくりしたびっくりしたびっくりした。ここで誰かに声をかけられるなんて想定外だよ。頭の中が一気に冷めていく。ようやく思い出しかけていた台詞もすっ飛んだ。もったいない、あとちょっとだったのに。
振り返ると、長身の女の子を引きずっている堀が目を瞬かせていた。首根っこを掴まれて引きずられている張本人、演劇部の王子こと鹿島も、ぽかんと呆気に取られてこちらを見ている。
あ、そういえば。堀って鹿島のため、野崎に台本を書いてもらってるんだったっけ。

「堀ちゃん先輩、知り合いですか?」
「同じクラスの奴だ」

堀が鹿島を掴んでいた手を離し、腕組みをした。鹿島が立ち上がる。やっぱり背、高いなぁ。
舞台の上の鹿島なら何度か見たことあるけど、こんな風に普通に会うのは初めてかもしれない。
堀のお気に入りって噂には聞いてたけど、見ている限り、言葉通りすっごく仲良しそう。流石演劇部の部長と王子。息ぴったりだね。

「堀ちゃんって呼び方良いな、私も真似しよっかな」
「?」

あ、思っただけのつもりが、つい声に出してしまってたみたい。二人の不思議そうな視線を感じて、今更ながら取り繕うような笑みを浮かべる。

「はじめましてだよね。3年の長谷部佳です、よろしくねー」
「あ、私……」
「知ってる、2年の鹿島だよね。舞台の上でだったら見たことあったんだけどね、やっぱり顔立ち綺麗だね!堀が労働する理由もわか……」
「ちょっと待て!」

鹿島が目を白黒させているうちに、堀に口を塞がれ思いっきり後ろに引っ張られる。なんか、不審者に連れ去られているような、まさにそんな感じ。
なんか、先程の鹿島のようにズルズルと引きずられている。途中、がくりと後ろにバランスを崩しかけたところを支えられ、内緒話をするように耳元で囁かれた。

「漫画の話は鹿島には秘密だ」
「そうなの?なんで?」
「理由は後で話す」

なんだなんだ、訳がわからない。とりあえず、野崎のアシスタントであること、そして台本を書いてもらってるってことは隠しておけば良いのかな。わかったよと、どうにかこうにか堀の手から逃げ出して、やっと自由の身になる。あーびっくりした。

「急にどうしたんですか、二人とも」
「堀が、『鹿島のために労働してるって言い方は負けた気がするから、鹿島のために大道具を作っているって言い方が良い』って駄々こねてきたから。困っちゃうなぁもう」
「確かに、堀ちゃん先輩って、意外と子供っぽいところありますよね」
「堀って、きっとガラスのハートを持ってるんだよ。知らなかったなぁ、今度から気をつけることにするよ……」
「先輩、私も気をつけます!」

おお、ばっちり。我ながら、上手く誤魔化すことが出来た気がする。しかも、なんだかんだで鹿島と仲良くなった気もする。
鹿島の手を握ってぶんぶん上下に揺らしながら、自信満々に堀の方を振り返ると。

「何を意気投合してんだアイツら……嫌な予感しかしねぇ」

堀は渋い顔をしながら、ブツブツと独り言を呟いていた。
あれれ、結構頑張って誤魔化したんだけどな。褒められると思ってたのに酷い言われよう。なんでだろ。


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