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「#幼馴染」のBL小説を読む
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- ナノ -
何でか知らないけど、今日は部活がなくなったらしい。困ったな、放課後することがなくて暇になってしまった。

そういえば、この前、野崎が「もうそろそろ墨が足りなくなりそうだ」とか何とか言っていた気がする。近くの店で墨を購入し、ついでにコンビニでお菓子とジュースを買った。
前行った時は月刊少女ロマンスを読めなかったから、今日は読めるといいな、とか思って手伝いがてら野崎の家に向かったんだけれども。

なんか、野崎の家の前に、赤いリボンを付けた、背の低い可愛い女の子がいる。見たことないし、同じ学年ではないと思うけど、どうしたんだろう。
家に呼んでるってことは、もしかして、野崎の彼女だったりして。

「あのー、こんにちは?」
「こ、こんにちはっ!」
「どうしたの?野崎いないの?」
「いや、多分いると思います!」

うん、可愛い、この子。なんかこれ、留守番中の小学生の女の子に「お父さんいますか?」って声をかけてるような気分。さながら、目の前の彼女は野崎の子供ってところかな。こんなこと言ったら怒られちゃいそうだけど。
でも、わざわざ家まで来るなんて、やっぱりこの子って、

「もしかして、野崎の彼女?」
「えっ!?いや、違っ、そうだと良いなとは、えっと、思っ……!」

おお、慌ててる慌ててる。
そうか、彼女、野崎のことが好きみたい。やるなぁ、野崎。今までそんな話、少なくとも私は聞いたことなかったから新鮮。
でも、この反応じゃ彼女じゃないらしい。ってことはこの子も、漫画のお手伝いさんなのだろうか。

「じゃあ、野崎のアシスタント?」
「はい!」
「そっか。私、3年の長谷部佳だよ。よろしくね」
「あ、私、2年の佐倉千代って言います!」

名前で呼んでくれると嬉しいな、と付け加え、このまま立っているのも何だし、と思い野崎の家のドアを開ける。先に千代を家の中に通して、私もそれに続こうとすると、

「おじゃましまーす。あ、堀先輩も来てたんですね」
「よう佐倉……と長谷部?珍しい組み合わせだな」

なんか知らないけど、堀がその場にいた。堀と千代は知り合いだったなんて、全然知らなかった。いや、同じ野崎のアシスタントなら知り合いでも何ら不思議はないのかもしれない。
というか、珍しいも何も、私と千代は今知り合ったばかりだから、一緒に野崎の家に入るのは初めてに決まってる。

「あれ、堀先輩と佳先輩ってどんな関係なんですか?」
「どんな関係って……同じクラスだ」
「そうなんですか?意外かも」

千代が感心したように呟く。でも意外って、同じクラスってことに意外とか意外じゃないとかあるのかな。
例えば、私と堀がクラスメイトってイメージがわかない、とかそういう感じのことを言っているとか?それはそれでなんか悲しい。

「まあ、この前までほとんど話したこと、なかったんだけどね」
「2年間同じで、話したことがなかったってのも珍しいけどな」
「2年間?去年も同じだったっけ?」
「いや覚えてろよ、それくらい……」

責めるような堀の視線に、思わずたじろぐ。別に堀が例外ってわけじゃなくて、そもそも男子とは関わりが薄いから、よっぽど目立たない限り、ほとんどの男子は記憶にない。
加えて、一年生の頃から堀って演劇部ってイメージがとんでもなく強くて、教室内での印象が(私にとっては)薄いっていうか。
数年前の記憶を掘り起こしていると、野崎が遠い目をしながら言葉を挟む。

「そういえば長谷部先輩、昔から名前を覚えるの苦手でしたね」
「いやいや、そんなことないよ?」

いや、まあ、中学の時は部員の名前を覚えきらなくって大変だったって記憶がある。マネージャーなら全て把握しとくべき!って友達に怒られたりしたんだっけ。でも、高校になってからは必死に頭に叩き込んでるから、今なら大丈夫なはず。

「じ、じゃあ私!私の名前はわかりますか!」
「わかるよ。聞いたばかりだよ?佐倉千代、でしょ」
「あとは、そうだなぁ、野崎くんとか!」
「の、野崎……のざき……何だったっけ……」
「え、えっと、堀先輩は?」
「……わ、わかりません……」

ちょっと待って。千代は同性だし名前聞いたばかりだし、野崎は中学の頃からの知り合いだからわかるけど、なんで堀の名前まで把握していないといけない流れなの。普通クラスメイトの名前なんて全員分は覚えてない。全員の苗字を覚えていれば、十分に決まってる。

「ほ、堀だって私の名前わかんないよね。お互い様だよ!」
「それくらいわかるぞ。長谷部佳だろ?」
「えっ……なんで?」
「いや、なんでって、小テストとか交換したりするじゃねえか。2年も同じなら流石に覚えるだろ……」

あれだけ名前で呼ばれてたらすぐ覚えるぞ、と堀がぼやく。確かに、前の席の友人は、私のことを名前で呼んでいる。それが休み時間毎回あるわけで。それなら隣の席の堀だって覚えちゃうかもしれない。いや、そんなことあるのかな……。
しかも、そう言われれば今日の二時間目、古典の小テストを交換採点した気がするようなしないような。でも名前なんて見たっけ、普通採点するときに名前なんて見てないと思うんだけど。

「あ、名前を覚えるなら携帯の電話帳を利用すれば良いんじゃないですか?いやでもメールするときに名前を見ることになりますし!」
「いや、名前を覚えてないのにメールする用件があるとは思えないよ……」

というより、私、野崎のメアド知ってるのに名前が思い浮かばなかったから効果薄いってもうわかってるんだよ。
一応真面目に反論してみるけど、千代の耳には入ってないらしい。私の反駁は何処へ行っているのやら。
結局、楽しそうな千代を無理矢理止めることはできず。彼女のアイディアを採用し、その場のみんなとメアドを交換することになった。

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