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放課後、部活が終わった後。家に帰っても特にすることが無かったので、近くのコンビニで軽くつまめるものを2、3個購入して、野崎の家に行くことに決めた。

漫画については、そこまで知っているわけじゃないけど。顔見せついでに、何か私にでも出来ることがあったら少し手伝っていこう、消しゴムかけくらいなら私でもできるし。
たまには後輩に良いところを見せないとね、なんて鼻歌まじりに野崎の家のドアを開ける。
勝手知ったる人の家。靴を脱いで、遠慮なしに家の中を進んで、挨拶代わりに声を上げる、と。

「野崎ー、差し入れ持ってきた、よ……」

あれ、私部屋間違ったっけ。
目の前には野崎じゃなくて、何故か机で原稿と睨めっこしている堀がいた。

「長谷部?」
「えっと、堀?なんでこんなところに」
「いや、お前こそ」

ペンを持っているってことは、堀も野崎の手伝いをしているってことか。漫画の手伝いを誰かに頼んでいるのは知ってたけれど、それが堀だとは知らなかった。

「私は野崎に差し入れを。堀は、えっと……」
「俺はアイツの手伝いだ」

いやまあ、その様子を見れば手伝いだというのはわかるんだけども、頭がついていかない。
二人ともなんとも言えなくなって、気まずい空気が流れる。そういえば野崎は一体何をしているんだろう、と考えたところで、タイミング良く張本人が隣の部屋から顔を出した。

「あ、長谷部先輩来てたんですか」
「うん、時間あったから寄ってみた。はいこれ、息抜きにどーぞ」

コンビニで買ったお菓子やら飲み物やらを袋ごと渡す。

「ありがとうございます。先輩もお茶どうですか?今から休憩するんで」
「欲しいかも。お願いしまーす」

じゃあちょっと待っててください、と野崎がキッチンに引っ込む。リビング(仕事場)に残されたのは私たちだけ。取り敢えず、適当なところに座ってテレビをつける。この時間だと夕方のニュースか子供向けアニメとかしかないかなぁ、とリモコンを操作しながら考えて、はっと思い当たった。

なんか、喋る話題が、全然全くない。同じクラスだけど、私と堀は、あんまり交流がある方ではなくて。プリント取ってとか消しゴム貸してとか、そういう必要最低限のことしか話したことがない、気がする。詳細は良く覚えていないけど。

せっかくだから、王子様のことを堀くんに聞いてみたらいいじゃない、と頭の中で今日の友人の言葉が蘇る。
話題を探して思い当たるのがこれだけなんて不本意だけど、ここで聞かなかったら、彼女にばれた時に大変怒られそうだ。他に話すことなんてないし、こうなってしまったならしょうがないと腹を括り、足を崩してのんびり寛いでいる堀に声をかける。

「あの、堀って演劇部だったよね?」
「ああ。どうかしたのか?」

どくんどくん、といつもより大きく心臓の鼓動が聞こえる。ぎゅっと拳を握り、意を決して声を絞り出した。

「えっと、演劇部に思いっきり王子様って感じの、演技の上手い人、いなかった?」
「鹿島じゃないのか?」

さも当然のように出てきたのは鹿島の名前。ほらやっぱり!私が言った通りの展開だよ、これ!ここにはいない友人に腹を立てつつ、内心ちょっと残念に思っていた。
現部長である堀がわからないんなら、きっと、もう会うことはできないんだろうな。もう一回、あの演技を、今度は本人の表情や身振り手振りを含めて見てみたかった、なんて。そこまで望むのは贅沢なのだろうか。

「鹿島って二年の子だよね。その時はまだ、入学してないはずだから、別の人のことだと思うんだけど……」
「それは、どういうーーー」

訝しげに眉をひそめた堀と視線がばっちり合う。どうせなら、もうちょい詳しく聞いてみようかと口を開いたところで。
勢い良く何かを殴り書きしているような、奇妙な音がキッチンから聞こえてきた。会話が途切れる。
恐る恐る振り向くと、そこには、満面の笑みでバインダーを手に持ち、ボールペンで何かを書き連ねている野崎がいた。

「俺のことは気にせず、どうぞ続けてください」
「ちょっと待て、お前それ漫画のネタにするつもりだろ!」
「王道ですが、誰かわからない王子様を探し続ける女子高生っていうのもイケると思いますよ」
「絶対いやだよ!やめてよ!恥ずかしいよ!」

全国の女の子たちに「今時王子様とかね(笑)」とか思われるのは絶対いやだよ!お断りだよ!
この話題は一旦中断。少女漫画のいいネタにされてたまるものかと、野崎からバインダーを取り上げることにした。



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