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二年前の冬、私は王子様を見つけた。
それは、好きな男の子とか運命の相手を意味する王子様なんかじゃなくて、正真正銘おとぎ話に出てくるような、そんな王子様だった。





楽しい楽しい冬休みである。私にとっては、高校入学して初めての冬休みだ。
そして、こんな今冬の最低気温を更新した日に限って、声楽部の集まりがあったりする。
冬休みの大半を自宅の炬燵の中で過ごしていた私にとって、寒いのに外に出るのは中々苦痛だった。布団にこもりたいと主張する四肢を叱咤して起き上がり、やっとの事で家を出たのだ。
生徒の姿が無く閑散とした浪漫学園の廊下も、とんでもなく寒い。校舎の中だけども手袋とマフラーをしたまま声楽部の部室に向かう。
ドアはぴしゃりと閉められている。部室の中は少しくらいはあったかいかなぁと想像を膨らませつつ、冷たいドアに手をかけ、

「え?」

固まった。開いてない。声楽部の部室、鍵が開いてない。
そういえば、集合時間の5分前なのに、部員が誰もいないみたいだ。確か、集まらなくちゃいけない日だったはずなのに。今日は皆寝坊しているのかな。それとも、もしかして集合場所か時間が変更になったのかも。
とりあえず携帯電話で誰かに連絡しようと思い、鞄に手を突っ込む。

そうだった。私、昨日携帯を教室に忘れてて、部室に来る前に回収したままメールを確認してなかった。
慌てて画面を覗き込む。未読メールが数件。その中に、部長からの連絡が入っていた。送信されたのは昨晩、ちょうど夕飯を食べていた時間。

「うっそだぁ……」

信じられなくて、何度も何度も読み直す。件名、緊急連絡。
端的に言えば、体調不良や帰省により部員の大半が学校に来れないため、集まりはなくなる、ということだった。
いや、まあ、わからないでもないけれども。予測不可能な体調不良なら仕方ない。きっと部長だって昨日連絡をもらったんだろうし。というか、このタイミングで携帯忘れた私も私なんだが。
でもなんか、全然全く納得いかない。
そこそこの時間をかけて、高校にはるばるやってきたのだ。何もしないまま帰るのって、凄く勿体無いというか、損した気分。

そうだ、どっかの店に寄って帰ろうか。冬休みなのに、一人な上に制服で出歩くのは不本意だけど、このまま家に帰ったってすることがあるわけでもない。折角ここまで出てきたんだから、何かしらやって帰らないと気が済まない。
しーんと静まっている廊下をとぼとぼ歩く。こんな年末に学校に来ている物好きなんてそうそういない。いてもコンクールなどが近づいている文化部の一部か、厳しめの運動部くらいである。

「あれ?」

生徒はいないと思い込んでいたのに、なんか、他の教室から声が聞こえた。運動部が声出ししてるような感じじゃなく、聞き取りやすい、よく通る声。
校舎内で声を出すってことは、放送部か声楽部か演劇部ってところか。声楽部でないことは確定だけれども。
こんな年末にわざわざ学校に出てきてるなんてすごいな。自主練だろうか。少し興味が湧いてきて、声を頼りに廊下を進む。

階段を勢い良く駆け下りる。あと少し。だいぶはっきりと聞こえるようになってきた。後もうちょっとで鮮明に聞き取れるはず。

ーーー君に一つだけ望むならば、こんな馬鹿な男がいたことを覚えておいて欲しい。

目の前には演劇部の部室。そこから聞こえてきたのは、凛々しくて、それでいて誰かを愛おしんでいるような、柔らかな声。

「ほんの一欠片でも、君の人生の一部になれたのなら。俺のこの生涯にも、意味が見出せるというものだ」

たっぷり十数秒間くらいの間、時が止まっていたような気がした。
息をするのも忘れて、出来たのは台詞の余韻に浸ることだけ。頭の中を、今の言葉がくるくる回り続ける。

「…………っ!」

若干間を挟んで、一気に頬が火照った。私が言われたってわけじゃないのに、そもそも、台詞の主の顔すらわかんないのに。それなのに、まるで耳元で囁かれたかのように背中からぞわっと鳥肌が立った。なにこれ、すっごい恥ずかしい。

「う、わ……」

堪らなくて部室に背中を向けたら、目の前の窓ガラスに薄っすらと自分の顔が映っている。私、今までにないくらい、顔、真っ赤だ。
いてもたってもいられなくなって、進んできた廊下を走って戻る。運動会の徒競走がスタートした時みたいに、がむしゃらに足を動かした。

ほんの一欠片でも、君の人生の一部になれたのなら。
蕩けそうな言葉が、演劇部の男子生徒の声のまま、何度も何度も頭の中でリピートされる。

熱を持った頬を指先で冷やす。柄にもなく赤面してしまった自分に、ばか、と小さく呟いた。


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