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「あれ、堀?」

いつもと同じ時間に、のんびり歩きながら登校していると、校門をくぐって少ししたところで堀を見つけた。いつもはこの時間にいないのに、珍しい。

おはようと挨拶を交わし、早足で隣に並ぶ。今日やらなくちゃいけない宿題とかあったっけ、とか小テストの範囲とか、何でもない話をしていると、不意に堀が真面目な表情で歩みを止めた。つられて足を止め、そのまま堀を見上げる。

「なあ長谷部」
「ん?どしたの?」
「お前、背縮んだか?少しだが目線が変わった気がするんだが」
「え!?」

背が縮んだとか、生まれて初めて聞かれたよ、そんなこと。まだ小さくなるような年でもないと思うのにな。ちょっと、いや凄い複雑。
でも、そう言われると、堀との目線、変わった気がしないでもない。いや、流石にこの短期間で私の背、違いがわかるほど、ちっちゃくなってしまうわけないし。そもそも、男子って高校卒業しても背が伸びる人いるらしいし、堀の背が高くなったんじゃないかな、とか思ったり。ほぼ確証のない、ただの願望だけど。

「す、少なくとも縮んではないと思う。堀が高くなったんじゃない?」

しどろもどろに反論してみるけど、そうか?と頻りに堀が首をひねるもんだから、焦る。
え、本当に小さくなってる?この堀の反応、ちょっとした意地悪で言っているとは思えないし。
あとで保健室行って、身長測らせて貰おうかな。あー、でも本当に縮んでたら嫌だな。そんな現実、知りたくない。私、まだ10代なのに。
うう、考えれば考えるほど気になって仕方がない。暫し、自分はどうすべきか悩んでいると、どこまでも元気な声が後ろから降ってきた。

「堀ちゃん先輩!長谷部先輩!」

後ろを振り返ると、鹿島がキラキラした眩しい笑顔で走ってきていた。おお、伊達に王子様やってないなぁ。良い笑顔。
これまた珍しい、鹿島の周りに女の子が居ないみたいだ。今日は雨か、もしくは槍が降ってきたりして。

そして、また始まった。いつものように鹿島は堀と軽口の応酬をし(というより一方的に堀を揶揄い)、その後思い切り殴られていた。最早、日課と化しているようにも見える。大丈夫なのかな、あれ。見ているだけでも、結構痛そうだけど。やっぱり毎日毎日やってると慣れちゃうのかな、ああいうのも。それとも、喧嘩するほど仲が良いってやつ?鹿島は勿論のこと、堀も生き生きしているように見えるし。

「あれ?長谷部先輩、靴変えました?」
「えっ!?」

堀と戯れて(?)いた鹿島が、唐突にこちらを見た。いきなり話題を振られて、傍観者になり油断しきっていた私の声が裏返る。
そういえばそうだった。家を出た後、すっかり忘れてしまっていたけれど、今日新しく引っ張り出したローファーだったんだ。幾度も雨に濡れてしまったのがいけなかったんだと思う。ボロボロになってしまっていたから、昨日取り替えた。
履いている本人も忘れてしまうくらいなのに、よく気がついたな、鹿島。流石。

「うん。良く気付いたね、鹿島」
「いやー、それくらいわかりますよー」

でも、こうやって何気ない変化に気付いてくれるのって、嬉しいかも。ニヤける顔を見られないように少し早足になり、堀たちより一歩先に進む。

頬っぺたに手を当てて気を抜いたら口角が上がる口元を隠していると、更に更にレアな人を発見した。良く遅刻するって聞いてる結月が、学校にいる。厳密に言うと、私たちの十数メートル先を歩いてる。私、この時間に結月を見たことないよ。まあ、乗ってくる電車の時間も方向も違うから当然だけど。でも、折角だし声かけたい。部活のことで軽く連絡したいこともあるし。聞きたいこともあるし!

「あ、私、ちょっと結月に声かけてくるね。ばいばい、また後で」

いてもたってもいられなくて、堀と鹿島に向かって手を振り、小走りで結月の元へ向かったのだけれど。
何をしたのかは知らないが、朝から教師二人に追いかけられたらしく、彼女はもう遠くまで走り去ってしまった後だった。逃げ足速いな、結月。

その後、近辺を探してみたけど結局捕まえることが出来ず。諦めてとぼとぼと教室へ向かう。色々聞きたいこと、あったんだけどな。この前は聞き流してしまった、貰った手袋の話とか。残念。
あぁ、堀たちに会って朝から上がっていたテンションが下がってしまった。自分の教室までの道のりが遠い。嫌だなぁ、面倒くさいし階段上がりたくないなぁとぼやきつつノロノロと足を動かしていると、上の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。耳をすます。

「先輩、愛されてますね!」
「は?何言ってんだてめえ」

あ、堀と鹿島の声。丁度ここからは見えない、上の階の踊り場で話しているみたい。二人とも、まだ教室行ってなかったんだ。学年違うのに、相変わらず仲良しだな。
でも、愛されてるって何の話だろう。演劇に情熱を捧げている堀の、そんな恋愛絡みの話なんて、聞いたことない。ふつふつと興味が湧いてきて、悪いとは思いながらも立ち止まって聞き耳をたてる。何だろう何だろう、気になるなぁ。
人通りの少ない階段に、良く通る鹿島の声が響く。

「え?だから、長谷部先輩の靴ですよ。堀ちゃん先輩のために、前の靴より踵の低いのを選んだんじゃないんですか?」

急激に、全身の体温が上昇した。

「な……っ」

この前まで先輩たち、同じくらいの背丈でしたから、と鹿島が続ける。絶句したのか、喉から絞り出すような堀の声に、さらに頬が紅潮する。
ドサっと音を立ててカバンが床に落下した。右足に直撃して、即座に鈍い痛みが走るけど、そんなの気にならない。気にする余裕なんて、これっぽっちもない。
いや、本当にそんなつもりはなかった。いつもはちょっと踵の高い靴を履いていたけど、たまにはいいかな、なんて無意識に選んでいただけで。
縺れそうになる足を叱咤しながら、勢いよくUターンし階段を駆け下りる。そのまま一階に辿り着くと、壁に背を預けて、ぺたりと座り込んだ。

ダメだ。気が動転していて、教室で堀と会っても普通に話せる気がしない。このまま教室に行っても、どんな顔すれば良いの。席が隣だから顔を合わせないなんて無理だし、こんな理由で遅刻認定されたくないし。
ホームルーム開始まで、後10分。それまでに心臓が落ち着きますように。行き場のない感情を持て余しながら、ぎゅっとカバンを抱き締めた。

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